第37話 『大淫婦のバビロン』
この日、岸辺玖の改造手術が行われる時。
同時に、『角栄郷』から任務を終えた狩人が戻って来る。
「急患だッ、急いで集中治療室にッ」
「一名、脈がありません」
「移動しながら心臓マッサージを、いや、医療系の狩人を呼んで来いッ!」
『角栄郷』の関係者である医師がそう叫んで負傷者を治療室へと移動させていく。
すると、息をしなくなった女性の狩人のストレッチャーが急に傾いた。
足の部分が急に折れて、ストレッチャーごと女性の狩人が地面に向けて倒れる。
「何をしてるんだッ」
オレンジ色のつなぎを着た医師が叫んで近づく。
既に、息の無い遺体だから痛みなどまるで感じない筈だ。
しかし、その衝撃を受けた為か、瞑られていた瞼が急に開き出した。
その目を見て医師は体をびくりと震わせた。
通常、死んだ人間の眼には生気が宿っていない。
そして瞳孔は開いたままで、ガラス玉の様な目が特徴的だ。
だが、その女性の遺体の眼は黒く濁っていた。
まるで、風船に墨汁を入れたように、今にでも破裂しそうな瞳だ。
「なんだ」
不安そうな目で医師が見つめる中、医療系狩人は唐突に狩猟奇具を取り出す。
「何をッ」
声を荒げるが、説明している暇は無かった。
脂汗を流して、医療系狩人が鉈の様な狩猟奇具を持って走り出す。
「(見た事がある、あれは化物の眼に似てる、人間があの目をするって事は、つまりは)」
人間の中に、化物が寄生している、という事。
よくある話ではある。化物が追い詰められれば、自らの化石を摘出して、人間か周囲に居る別の化物に植え込めば、化石から噴出する化物の細胞が、他の生物の肉体を侵食して乗り移る事が可能なのだ。
「(七久保慶、確か、彼女が戦ったのは……ッ)」
威度SS『
報告書では、その化物の体内から化石が見つからなかったと書かれていた。
医療系狩人が七久保慶に向けて鉈型狩猟奇具を振り下ろす。
七久保慶はそれに反応すると、その鉈の刃を避ける素振りすらせず受け入れる。
パーカーフードを破いて、肩から心臓部まで届いたが、べきべきと音を鳴らした。
医療系狩人はその音が目の前から響いて来て、目を向けると戦慄した。
七久保慶の口は、顎を砕いて、頬を裂いて、整った容姿が崩れていき、人間が変形する姿に衝撃を受ける。
暗い口の中から灰色の皮膚をした両腕が伸びる。
「……逃げろ」
彼の後ろに居る医療関係者に告げる。
「早く、逃げろッ!!」
それが彼の最期の言葉だった。
変形した七久保慶の顔面から伸びる手が、彼の頭部を掴むと共に、七久保慶の口へと寄せて行き、そして、医療系狩人を鵜呑みにした。
ぐじゅぐじゅと血肉が混ざり、ぶちりと、臓物が千切れる音と、ばきばきと骨が砕けると音。ごくりと飲み込んで、七久保慶の腹部が肥大化する。
医療系狩人を食い殺して、膨らんだ腹部が蠢いて突き破る。
血飛沫と共に現れるのは、すらりと伸びた手と肥大化した腹部が特徴的な女性型の化物だった。
『角栄郷』に突如として出現する化物。
即座に、周囲に緊急発令が下された。
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