第21話
空は晴れているが屋上には少し冷たい風が吹いていた。稔に付いてきた大透は盛大にくしゃみをしてから、待っていた石森に食ってかかった。
「なんだよ。こんなところに呼び出して。言っとくけど告白なら無駄だぞ。倉井には俺というものがあるからな」
どうやら図書室で石森が稔を臆病者扱いしたことにまだ腹を立てているらしく、言葉に刺がある。稔は大透の頭を軽く殴ってから、俯いている石森に声をかけた。
「話って、樫塚のことだろ。違うか?」
石森の肩がビクッと震えた。大透がはっくしょんとくしゃみをする。
石森は躊躇うかのような沈黙の後で口を開いた。
「……倉井って、本当に、霊能力があるんだろ?」
顔を上げて、稔の目をひたりと見据えて石森は言った。
「樫塚の、アレ、見たか……?」
その声は不安そうに揺れていた。
「アレ、って…?」
石森の言う「アレ」というのは、自分が見たどれのことだろうと思いながら、稔は尋ね返した。腕に絡み付く白い手か、まとわりつく白い靄か、髪の長い女の影か。
どれだか知らないが、とにかく石森は樫塚について何かを「見た」らしい。
「何を見たってんだよ?」
大透が鼻をすすりながら問う。どうやら興味が出てきたらしい。だが、石森はそれには答えずに目を伏せた。青ざめた顔で、無意識だろうか――右腕を擦る仕草をする。
「……あの日、図書室で何かを見たか教えてくれ」
目を伏せたまま、石森は言った。
「あの時、倉井は慌てて出て行っただろう?何かいたんじゃないのか。教えてくれ。お前には本当に霊が見えるんだろう?」
「ってことは、やっぱし樫塚に霊能力があるっていうのは嘘なんだな」
大透が口を尖らせた。
「樫塚の自業自得じゃん。霊が見える振りなんかするから取り憑かれるんだよ」
「違う!」
呆れを隠さない大透の台詞に、石森が噛みつくように怒鳴った。
「樫塚は悪くないっ!」
稔と大透は目を丸くして、石森を見た。二人とも、石森が何故そんなにムキになるのかわからなかった。こうして部活をサボってまで稔達に尋ねるほど、石森は文司のことを気にしている。
石森は気持ちを落ち着けようとするように前髪をかき上げ、細く息を吐いた。
「………悪いのは、あいつの周りの連中だ」
吐き捨てるようにそう言って、石森は背を向けた。
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