第86話 慎也殿が欲しい!

 交合の時間。

 当然、険悪な雰囲気は、まだ続いている…。


 慎也は溜息ためいきしか出ない。が、女鬼との交合は月影村との約束となっているので、反故ほごには出来ない。

 舞衣は不機嫌丸出しで、布団ふとんをかぶっている。



 昨日はアマが最初であったが、今日はトヨ、タミ、アマの順になった。


 トヨ、タミが終わって、アマの番。


 昨日、慎也はアマにキスをしなかった。これは、トヨとタミにも同じである。今日も、先の二人にはキスをしていない。

 しかし、アマは、昨日の自分の交合の後に行われた、舞衣たちの交合をしっかり観察していた。そして、自分にはキスが無かったことに気が付いていた。


 そこで、今日は自分から、それを求めた。

 アマの方から、慎也の唇に唇を合わせ、舌を入れ、からませ合う。

 クチュクチュ、チュパチュパ、淫らな音を盛大に立てて、激しいキス…。


 アマは、慎也を好きになってしまっていた。


(愛しい。この人と、一生、一緒に暮らしたい)


 身をゆだね、愛撫される……。


(気持ち良い! 体がとろけそう!)


 挿入され、愛しい人と一つになった。

 愛しい人の子種が腹の中に注入される……。


(嬉しい! 幸せ!)


 …挿しこまれている慎也のモノが、自分の中から出て行ってしまう。


(いやだ、もっとつながっていたい! 自分だけのものにしたい!)


 アマの感情が暴発した。


「御主人様!」


 アマは裸のまま布団に正座し、慎也に頭を下げた。

 慎也は何事かと、坐ってアマを見た。


「私は、あなた様が愛しくて仕方がありません。私と所帯を持ってください。月影村に来てください。一生、一緒に暮らしてください!」


「なに~!!」


 舞衣が布団を跳ね上げて、飛び起きた。


「いい加減にしなさいよ! 慎也さんは私の主人って言ってるでしょ!」


「こんな女より、私の方が何に関しても優れています!

 一生お仕えします。ですから、私の元へ!」


「こ、この~!」


 舞衣はもう爆発寸前で、アマに殴りかかる勢いだ。


 が、それを慎也が止めた。

 そして、アマの前にキチンと正座した。


「アマさん。その申し出、お受けできません。俺の一番大切な人は舞衣さんだ。

 舞衣さんから離れて、他のところへ行くなんて絶対考えられない。

 きっぱり、お断りします」


「そ、そんな……。いや、私はあきらめません!

 絶対あなたを、私のとりこにして見せます。

 こんな女に、私が負けるはずありません!」


 そう言い放ち、着物を着て、部屋から出て行こうとする。

 トヨとタミが、あわてて付き従う。


「ちょっと、アマさ~ん!この家から出るのは契約違反だからね~!」


 恵美があせって呼び止めた。外に出られて人に見つかり、騒ぎになると大変だ。


「大丈夫です。屋敷からは出ません!

 この後の、あの女と御主人様の交合に同席したくないだけです!」


 オロオロ従う二人を引き連れ、アマは部屋から出ていってしまった。


「な、な、な、なによ、あれ~!!」


 舞衣は顔を真っ赤にして怒っている。

 杏奈と環奈がおびえ、抱き合って、部屋の隅に移動した。


 舞衣は、そのまま慎也に抱き着いた。

 唇を合わせ、舌をからませる。

 チュパチュパ盛大に音を立てて、むさぼるようなディープキス…。


 そして、唇を離し、ささやいた。


「みんな、ゴメン。今日は、慎也さんを私だけものにしたい」


 舞衣以外の妻たちは、顔を見合わせてうなずく。代表して祥子が口を開いた。


「正妻殿の、おおせのままに」


 舞衣は、慎也の布団に潜り込んだ。

 祥子、杏奈、環奈は、それぞれ、自分の床に入って、布団をかぶった。


 布団の中で、舞衣と慎也の、いつもと違う激しいからみが続く…。

 すっぽり布団を被っているので中の様子は分からないが、恐らく、舞衣からの一方的なアプローチだろう。


 恵美は、激しく動くその布団をしばらく眺めていた。そして溜息ためいきをついて、部屋を出た。

 アマたちはどこへ行ったかと探すと、居間にいた。

 恵美が居間に入ると、それを見て、アマから口を開いた。


「私は、なんてことを言ってしまったのだろう…。どうかしていた。

 だが、あの気持ちに嘘偽りない! それに!」


「それに~?」


「許せないのだ!」


「何が~?」


「恵美殿! あなたや、祥子殿なら、あきらめがつくのだ!

 しかし、あの女! あの女よりも、確実に私の方が能力は上だ!

 何故だ!何故、あの女なのだ! 何故……」


「私や祥子さんを認めてくれるのは嬉しいな~。

 じゃあ、その私や祥子さんが認める舞衣さんを、認めることは出来ないの~?」


「………」


 アマは首を横に振った。


「自分でも、何故なぜだか分からない。

 分からないが、あの女だけは、絶対認めたくない!」


 恵美は困り顔で、頭をポリポリといた。





 翌日。当然、雰囲気は最悪である。


 アマは、相変わらず慎也に近づこうとする。

 しかし、今日は朝から舞衣が、慎也にベッタリくっついている。

 さとあいもそれに従って、アマを牽制している。


 あいさとは、当然のこととしてアマを敵視していた。

 ところが意外なことに、娘たち全員が同じ考えということでは無かった。


(アマと父様がくっつけば、父様が私たちと一緒に、鬼の村に行ってくれる…)


 直接、それを口には出さないが、つきうたえみさちは、密かにアマを応援している節がある。


 そんなことで、あいさととは別れて、冷戦状態となってしまっていた。





 神社…。

 アルバイトに来ていた美雪は、不穏な空気を察知した。


「舞衣さん、顔怖い……。 何かありました?」


 不機嫌顔を隠しきれていない舞衣に、戸惑とまどいながらも話しかけてみた。


「アマが、慎也さんを奪おうとしてるの…」


「はあ?」


 舞衣は、何があったか包み隠さず話した。昨日は自分が慎也を独り占めしてしまったことも含めて…。


「だから、言わんこっちゃない…」


 美雪は苦笑いだ。


「でも、舞衣さんって、感覚が異常だと思ってましたけど…。なんか、安心しました。昨日は旦那様を独り占めなんて…」


 いきなりクスクス笑いだす美雪…。


「いや~よ~。美雪ちゃ~ん。

 お蔭でこっちは~、指くわえて寂し~く寝たんだから~!」


 恵美が茶々を入れた。が、本来の妻は舞衣なのであるから、恵美たちが遠慮するのは当然のことと、美雪は思う。


 ちなみに恵美は娘たちの教育係だが、最近はずっと付きっ切りではなく、忙しい時間帯は神社の方を手伝っている。


「そもそもですよ。誰が鬼を連れてくるなんて言い出したんですか?」


「あ……」


 舞衣は、恵美を見た。

 恵美は、きまり悪そうにする。


「やっぱり、恵美さんか…。どう責任取るんですか?」


「でも~、誰も反対しなかったのよ~!

 舞衣さんだって~、何も言わなかったじゃないですか~」


 恵美に向かっていた美雪の攻めるような視線が、舞衣にも突き刺さる。


「あの時は、何とも思わなかったのよ…。ごく普通のことだと思ってた…。おかしくなってたのかな?」


「そうそう。絶対おかしいから! 非常識すぎます!

 もっと、よく考えて行動してくださいね!」


 童顔幼児体型の美雪に、いい大人が叱責しっせきされている光景は、はたから見れば滑稽こっけい以外の何物でもない。そう思いながら、静かに聞いていた早紀が口を開いた。


「で、何か手は思いついてるんですか?」


 舞衣と恵美は、顔を見合わせて、同時に溜息ためいきをついた。


「これ以上何かしたら、宮司さんにお仕置きしてもらうとか…」


「え? 早紀、お仕置きって…」


 美雪が、早紀に斜めの視線を送る。早紀は淡々と答える。


「例の、フィンガーアタックってヤツしかないんじゃないですか?」


 舞衣も、斜めの視線を送りながら、つぶやくように言った。


「フィンガーアタックか~。それで大人しくなるかな……」

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