新たな仲間と、…別れ

第82話 神子の館と、夫候補

 さて、一件落着。

 慎也たちは帰ろうとしたのだが、そのタイミングで急に厚い雲が出てきて、月が隠れてしまった。

 これでは、異界の門を開けない。

 月が出るまでは、こちらに留まるしかない。


 ついでだからと、神子かんこが入る予定の館を案内してもらうことになった。

 更に、神子かんこの夫となる鬼の引き合わせも…。


 篝火かがりびかれた神社境内の広場の左右に、同じ造りで五棟ずつ並ぶ建物。


「向かって右が、先代神子かんこ様の館です。先代は五名でした。

 今回の神子かんこ様の館は左側です。ただ、今回は当初五名のはずでしたが、六名となり、さらに一棟使えぬ建物がありますので、お二人分は右側を使用します」


 テルが提灯ちょうちんを持って先頭を歩き、皆の足元を照らしながら案内して行く。


「拝殿に近い方から、一の神子館かんこのたち。次が二の神子館かんこのたちとなってゆきます。順番は、神子かんこ様が巫女様に身籠られた順になります」


「ということは~、うたが、一の神子かんこ~? あ、あれ~、なんでここだけ注連縄しめなわ張ってあるの~?」


 一の神子館かんこのたちには、他には無い注連縄が廻らされていた。


 テルは話しにくそうにしている。が、意を決したように、説明をし始めた。


「一の神子かんこ様は、残念ながら、流れてしまわれました。よって、巫女様の首とともに、この館に封印されています」


 舞衣は、テルの説明で表情を無くした。

 テルの横をフラフラとすり抜ける。

 篝火に照らされる館の、戸の前に進み出て、ひざまずいた。


「美月! こ、ここに美月の首が……」


「申し訳ありません。無暗に開けることは禁じられております。それに……、見ない方が良いかと…」


 テルの制止で、舞衣は戸に掛けようとしていた手を止めた。

 あれから四年以上経過しているのだ。当然、生前の美月の姿とは全く違う状態になっているはず…。

 そんな姿を、美月も見られたくないだろう。


 戸の前でひざまずいたまま、舞衣は手を合わせた。両目からは、止めどなく涙があふれだす…。

 他の皆も、合掌した。


 しばらくの後、慎也が舞衣を起こし上げ、隣の二の神子館かんこのたちへ移動した。


「え~と、じゃあ、こちらが、うたの家ね~。で、旦那は~?」


 一気に暗くなってしまった雰囲気を変えようと、恵美がつとめて明るく問いかけた。

 一人のあまり特徴の無い顔立ちの鬼が、杏奈の子、うたにお辞儀じぎした。


「この館のくじを引いたのは彼です」


「あれ~、籤引きなんだ~」


「通常は、籤ではありません。年齢順です。

 ただ今回は、受胎時とお誕生時の神子かんこ様の数が異なるということになりました。こういう時は、神子かんこ様お誕生時に、改めて神前で籤引きをすることになっています」


「へ~。うた、未来の旦那の感想は~?」


「え~と…。あまりパッとしないけど、まあ、こんなもんじゃないですか?」


 気まずい雰囲気がただよう…。

 相手の鬼は、頭をいて申し訳なさそうにしている。


 …皆、心では同調しても、口には出し難い感想だった。


 三の神子館かんこのたちえみで、環奈の子。

 相手はガッチリ体型の鬼。顔も、まあまあ。


「私は、まあ、当たりかな…?」


 これも、相槌あいづちは打ち難い。うたが大いに不満そうにしているし、うたの相方の鬼にも追い打ちを掛けるようなものだ。


 四の神子館かんこのたちは、つき。恵美の子だ。

 相手は、細身のイケメン。肉体系というより、頭脳労働系が向きそうな鬼。


「私は、大当ったり~!」


 ブイサインする。

 気に入ったようだ。が、これもやはり、他の鬼に失礼である。


 五の神子館かんこのたちさち。沙織の子。

 相手は、あまり冴えない、というか、見た目、足りなさそうな鬼…。

 予定外の神子かんこ増加で、急遽きゅうきょ追加された鬼ということである。


 予定外というのは、舞衣と祥子の子のこと。舞衣と祥子は、今回、本来の「神子かんこの巫女」でなかったのだ。

 二人分増えているが、美月の分が減っているので、最終的な増加は一人分である。


「……頑張ります。宜しくお願いします」


 何を頑張るのか、よく分からないが…。沙織の子らしい、気を使った発言で、皆、ホッとした。

 これ以上の失礼は勘弁して欲しいし、足りなさそうに見えても、案外そういう人物が大きなことを成し遂げるということもあるのだ。

 勿論もちろん、極々まれにだが…。


 向かい側は、拝殿に近い方に戻って六の神子館かんこのたちとなる。環奈が監禁されていたところで、祥子の子、さとの館だ。が、ここはクイが籤を引いていた。

 つまり、相手がいないのだ。


「なによ~。私は独り身になっちゃうの~!」


「いえ。もし神子かんこ様が宜しければ、前の世代から選んで頂ければと…。この二人です」


 二人の鬼が前へ出る。一世代前ということで、見た目は四十代くらい。(実年齢は百二十歳を超える…)

 タイプは違うが、どちらもなかなかのイケメンだ。


「いいな~。さとちゃんは選べるんだ!どっちがいいの~?」


 つきに冷やかされ、前に並んだ二人を見比べ、さとは困惑している。

 初対面で、いきなり選べと言われても、困るのは当然である。


「母様、どっちがいい?」


 さとは、母親の祥子に助けを求めた。祥子なら、相手の本性を見抜けること知っていたからだ。


「うむ。どちらでも問題ないぞ。其方そなたの好きな方にせよ」


 祥子にも、そう言われてしまうと、後は自分の判断しかない。

 しばらうなった末……、


「じゃあ、こっち!」


 細身と、筋肉質の鬼からの選択であったが、さとが選んだのは筋肉質の方だった。


「こっちの方が、強そう!」


「え? 強そうって、まあ、腕力ありそうだけど、それが理由なの?」


 意外な理由に、慎也がくと。


「違う、父様! セックスが!」


 皆がギョッとした。


「だって、子供たくさん作るのが、私たちの仕事でしょ!」


 それはそうだが、先ほどの張形はりがたの件もあり、改めて白い目が、教育係の恵美に集中した。

 当の恵美は、その視線に気付かない振りをしている…。


 最後は七の神子館かんこのたち。舞衣の子の、あいの番だ。


「ええと…、ここの籤は、私が引きました。よろしくお願いします」


 照れながら頭を下げるテルに、あいは、ニッコリ笑った。

 娘たちは母親似で、皆、間違いなく美少女である。

 中でもあいは、舞衣の子だ。

 色白の舞衣以上に白い肌で、亜麻色の髪に栗色の瞳。少し色素欠乏の傾向があるのかもしれないが、それがまた美貌に輪をかけ、天使のような容貌容姿…。

 この超絶美少女と、鬼一番のイケメンは、文句の無い組み合わせである。


「あ~あ、やっぱり舞衣さんの子が一番いいとこ持ってくわ~。だって、このイケメンで、将来の村長むらおさよ~。でも、まあ、仕方ないわね~」


 こんな発言をするのは、当然、恵美だ…。



 夜も遅くなってきた。

 雲が厚く、月は出てこない。やはり、このまま泊まることになった。



 翌日は、雲一つない良い天気。日の光の中で、村を案内された。


 魚も取れる。

 獣や鳥もいて、肉もある。

 米は無いが、ひえのような雑穀があり、野菜・芋もある。

 四季があり、冬は雪も降るが、豪雪地帯ということでも無いようだ。

 生活するのには問題なさそうである。


 これなら、娘たちを送り出しても大丈夫と安心できた。

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