第79話 鬼狩り!1
光を抜けると…。
見たことの無い場所。
…山が近い。小川が流れている。
近代的な建物・工作物は一切無い。
電灯も無いのでかなり暗いが、満月に近い月明かりには、それなりの光量がある。目が慣れれば、結構見える。
ここは、別の世界。異界……。
そして、通ってきた白い壁は、そのままで消えず、存在し続けている。
元の世界と
この門が無いと戻れない。が、知らない者が迷い込んでも困る。
特に危ないのは、いつも突然現れる田中総代と、その孫で好奇心旺盛な美雪だ。慎也は、それが心配になった。
「この光の壁。このままじゃ、
「ああ、多分、こうすれば~」
恵美にも、慎也の心配は理解できた。想像した危険人物の顔も同じであろう。鏡に月光を映して横縦横縦…と格子を描く。
壁は、すぐに消滅した。
「なるほど、セーマンと、ドーマンか…」
慎也の
陰陽道の技。志摩の
五芒星はセーマン。
格子はドーマン。
この二つの模様を描くことで、異界の門を開いたり閉じたり出来るということだったのだ。
「よ、良かった…。環奈、無事だ!」
杏奈が、泣き出しそうな声を発した。
「環奈と
鬼は環奈を
「なんだそれ…。いったい、何がどうなっているんだ…」
慎也は、首を
「いた! こっちよ」
恵美が急に走り出す。
千里眼の能力で、あの鬼を発見したようである。
向かった先の、少し離れたところ…。
「テル~。テルが死んでしまう~!」
「あ、
「テル~!」
鬼を視認した恵美。一旦立ち止まり、仁王立ちで、静かに抜刀した。
「決着つけるわ」
右手だけで持ち、肩に置くように構えた刀。それを月光で輝かせながら、緩やかな下り坂を一気に駆け下りる。
すぐにアマは気付いて、身構えた。
「おのれ~!よくも我が弟を! その首、噛みちぎって叩き潰してくれよう!」
怒り顔。まさに本家本元の、鬼の形相。
テルに取りすがって泣いていたので、四つん
アマは怒りながらも、しっかりと恵美を見据えていた。
月を背にして接近して来るので逆光で分かりにくいが、今、恵美は、間違いなく目を開けている。
距離、三間……。二間……。
好機到来!
だが……。
これは、恵美の誘いだった。
アマは、まんまとそれに乗ってしまったのだ。
視認しにくい逆光で迫ったのも計算の内。恵美は、空いている左手で素早く
アマが見たのは、鏡に映ったアマ自身の目。その目が赤く光るのを見てしまった。
自分で自分に金縛りを掛けてしまった!
アマの金縛りは強力。その上、近距離から、特に力を込めての金縛り。
手足の自由はもちろん、能力の発動も完全に縛る。
……能力が使えない。つまり、もう、金縛りを解くことが出来ない……
アマは、四つん這いで動けなくなったまま、絶望のどん底に突き落とされた。
何が起きたのか、薄れそうな意識の中でも、テルには状況が分かった。
(もうダメだ。
だが、ヒトの行動は予想外だった。
ヒトの男が来た。
首を
駆け付けてきたヒトは、持ってきていたテルの手首を取り出し、
痛みが消えて行く。
手首が戻ってゆく。動かせる…。
右肩の傷も、消えて行く…。
(治してくれているのか……。なぜだ!)
傷は治ったが、出血が
「な、なぜ治す。我らは、お前たちの仲間を
「やりたくなかったけど、仕方なくだろ? いったい、何がどうなっているのか、説明してくれないかな?」
「今更、
テルの両目から涙が
「もう一生あのままって、じゃあ、あの人は、なぜ動けるようになっているのでしょう?」
慎也が指差した、その先には…。
月に照らされ、浮遊しながら近づいてくる祥子。
……祥子はアマの金縛りに掛かって動けなくなっていたはずなのに……
「お、おお~! なぜだ! 術者本人が解除するか、術者が死ぬ以外に解けぬはず!
方法があるなら、頼む、
テルは驚愕し、慎也に取りすがった。
自らの術で四つん這いのまま動けなくなったアマにも、この会話は聞こえている。そして、アマの金縛りを破った祥子も見えていた。
今、アマの首には、恵美の刀が当てられ、その刃の冷たさを感じている。
まだ斬られてはいないが、即座に引き斬ることが可能な状態での一時停止。
恵美が刀をズイッと引けば、自分の首は血を吹き乍らゴロリと落ちる。
自分は自分の金縛りでもう動くことが出来ず、一切の抵抗は出来ない。詰みなのだ。
…アマは声を出さずに泣いた。負けた悔しさに…。
負けを認め、許しを
術を解いて欲しいと頼むのは、彼女のプライドが許さない。
いっそ、このまま引き斬って欲しい。
この首を、サクッと斬り落として欲しい。
しかし、そうなれば村は…。
村を守らなければ…。
その思いで、自尊心を抑え込んだ。
「た、頼む。助けてくれ…」
屈辱に耐えながら、小声で請願した。
「仕方ないわね~。でも、まず、事情を話すのが先よ~」
恵美は刀をアマの首から外し、
アマに話させるのは難しそうと判断し、テルに視線で
テルは
そして、大昔からの村と鬼の歴史、五年前からの村に起こったこと、カル・タエ・クイのこと、クイの陰謀と、それに操られた今回の騒動を、すべて詳しく語った。
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