第76話 沙織への御褒美

 恵美たちのところへ、舞衣が戻って来た。

 沙織は御手洗い中。沙織が来ないうちに、先ほどの、夜の相談となる…。


「まあ、今日は特別ね。大活躍だったし、したくもない鬼と、しちゃったんだから」


「そうじゃな。正妻殿が良いなら、ワラワに異論は無いぞよ」


「私たちは、もちろんOKです」

「でも、お姉様、淫魔の力で慎也さんをとりこにしちゃわないでしょうか…」


「それは大丈夫じゃ。淫魔の力といっても、男をその気にさせて結合で操り、気を吸う力じゃ。結合が離れれば、正気に戻る。

 気を吸うのも、昼間鬼の気を大量に吸い過ぎて鼻血を出していたくらいじゃから、これ以上吸いたいとも思わんじゃろうし」


「じゃあ、決定ということで~、それで寝床の準備しますね~。

 ただ、広間以外で寝られるのは二部屋かな~? 後の部屋割り、どうします~?」


「あ、あの……。私たち、舞衣様と一緒がいいな~」


と、杏奈。

 環奈も隣で大きくうなずく。


「わ、私は良いけど…」


と、舞衣…。


「そうじゃな、其方そなたらは、正妻殿にかわいがってもらえ」


「かわいがるって、普通に寝るだけですよ!」


 杏奈と環奈は、うんうんと頷くが、目があやしい。


「じゃあ~、私は祥子さんと~!」


 そう言う恵美の目も何故なぜか怪しい雰囲気で、祥子は一抹の不安を感じる。しかし、杏奈・環奈が舞衣と一緒なら、承諾するしかなかった…。






 いつもは、広間に七人分の布団ふとんが並ぶ。

 入って中央を少し開け、枕を中央側にし、右に四組、左に三組。

 右は手前から慎也、舞衣、恵美、沙織の順、左は手前から祥子、杏奈、環奈。


 祥子と慎也が手前なのは起きるのが早いからで、慎也の隣が正妻の舞衣なのは当然。

 舞衣の隣を杏奈・環奈にすると舞衣のところに潜り込んでくるので、双子は祥子の側というのが定位置である。


 しかし、今日は、広い部屋に二組だけ。ということは、みんなの了承が得られたんだなと慎也は理解した。

 やがて、舞衣に背中を押されて沙織が入ってくる。


「じゃあ、お休みなさい」


 慎也には、出ていく舞衣の笑顔が、何だか怖く感じられた。

 恐らく、それは気のせい…。舞衣は、嫌なら許可しなければ良いだけのことだ。正妻であるのだから。

 舞衣が沙織を連れてきたのも、「許可していますよ」という意味に違いない。

 だが、考えてみれば、正式な妻の舞衣とも、結婚後に二人きりの夜を過ごしたことが無いのだ。舞衣を差し置いて沙織と二人だけになっているのが、気が引ける…。


(後で、何か嫌味を言われたりしないだろうか……)


 慎也は、すっかりおびえ癖が付いてしまっていた。

 占ってもらえば、間違いなく女難の相と出るだろう。はたから見れば、ハーレム状態であるのに…。


 沙織は恥ずかしそうに坐って慎也にお辞儀する。


「よ、よろしくお願いします」


「こ、こちらこそ」


 慎也も緊張。

 今まで、何度も申し出て許可してもらえなかった複数人で無いねや。望んでいたことのはずなのに、慣れというのは怖いモノ…。

 周りに誰もいないのが、逆に落ち着かない。


 だが、今日は、沙織に対する慰労と御褒美ほうびの意味合いでのこと。

 正妻も公認。そして、沙織も、慎也の妻の一人なのだ。

 気を取り直し、沙織に向かい合う。


 慎也の手が、沙織の肩に触れる。


 灯りが消された……。






 翌朝、祥子が眠そうに朝食の準備をしていた。

 舞衣が起きてくる。やはり、眠そうだ。


「どうした正妻殿?」


「う~ん、よく眠れなかった~。あの二人がしがみついてくるし、交互に胸触ったり脚触ったり悪戯いたずらするから……。 祥子さんも眠そうですね」


「ま、まあな、恵美と話し込んでしまってな」


「そうなんですか? どんなことを?」


「い、いや、まあ、その、色々とな…」


 祥子は言葉をにごした。

 実は、仙界での舞衣のことを根掘り葉掘りかれていたのだ。


 昨日、舞衣と沙織の話を立ち聞きし、よく聞き取れなかったこともあったが、大まかな顛末てんまつ把握はあくしていた恵美である。

 上手く誘導する恵美に乗せられ、舞衣の恥ずかしいことまで、祥子は洗いざらい話してしまった。

 とてもそんな話をしていたことは、舞衣には言えたものではない。

 しかし、舞衣は疑問に思いつつも、それ以上は追及しなかった。これは、祥子にとっては、幸いだった。



 いつも一番に起きる慎也が、やっと起きて、舞衣のところに顔を出す。


「おはようございます。今日は遅いですね」


「う~ん、いや~。まあ、その……」


 こちらも、口ごもる。


「何でもないよ」


 そそくさと逃げてゆくのを見て、舞衣と祥子は顔を見合わせた。


あやしい!」


 こちらは追及せずにはいられない。杏奈・環奈と恵美も加わり、一夜の相手をした沙織に襲撃をかける。

 まだ寝ていた沙織は、五人に起こされ、詰問された。


「な、何ですか、みんなそろって。そんな、特に変わったことは無いですよ。

 てか、恵美! 慎也さんに、鬼のデカマラのこと言ったでしょう!もう、恥ずかしい!」


 恵美は横を向いてとぼけているので、舞衣が沙織を問い詰める。


「沙織さん!いつも通りのはずはないでしょ。慎也さん、何か様子が変よ」


「え~っ。淫魔の力は使ってませんからね! ただ…」


「ただ?」


「いつもは六人でするでしょう? でも、昨日は私だけだったから、何回かおねだりはしましたけど……。

 だって一回だけじゃ、慎也さんも、かわいそうじゃないですか。

 私も何だか昨日は、とってもしたい気分だったし…」


 五人のジト目が並ぶ。


「で~、何回したの~?」


 沙織は恥ずかしそうに、小さな声で


「だから、慎也さんにとっては、いつもと同じように、六回……」


「えっ!」


 五人は絶句。


「ワラワの気の補充なしで、六回とな……」


 沙織は気を吸うことは出来るが、相手に渡すことができない。

 複数人相手でなくて楽になるどころか、慎也は、いつも以上に消耗していたのだった。

 そして、願っていたように一日一人で日替わりに相手することにしても、決して楽にはならないことを痛感したのであった。

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