第64話 養老山事件3

 亜希子は困っていた。

 …たせろと言われても、どうすれば良いのか。


 かく、殺気立って来ている鬼に提案する。


「あ、あの……。男の人は繊細ですので、気分が乗らないとたないですから、もしよろしければ、私が勃たせますけど……」


「なんじゃと。お前ならこの役立たずマラを使えるように出来るというか?

 ならば、やってみよ。出来なければ、二人まとめて八つ裂きじゃ」


「は、はい。では、あの……。動けるようにしてもらえませんか?」


「よかろう。但し不審な行動をとれば、すぐに殺すぞ!」


 女鬼に見詰められ、鬼の目が再び赤く光った。

 と同時に、亜希子は動けるようになった。


 徹の金縛りは既に解かれ、裸に剥かれている。

 さっきまで徹にまたがっていたタエが、たないと癇癪かんしゃくをおこし、あちこち鋭い爪で傷をつけていた。

 亜希子は、傷だらけの徹に抱き着いて、キスをする。


「安心して。大丈夫だから。私だけを見ていれば良いの。ここにいるのは私だけと思いなさい! 私が、必ずあなたを守る!私以外のことを考えちゃダメ!」


 しっかりと徹を抱き締めながら、亜希子は再び唇を重ね、舌を入れた。

 そして、そのままで服を脱いで裸になってゆく。





 対岸の早紀は、非常に困惑していた。


 ちょうど鬼がこっちの方角に顔を向けるような格好になっていて、全く動けない。

 草叢くさむらに隠れ、カメラのレンズだけそこから出して、ファインダー越しに様子をのぞき見している状態。

 吐き気を催す惨殺場面のあとに……、濃厚なラブシーンが始まってしまう……。


 亜希子はスタイル上々の美魔女。同性の早紀から見ても綺麗だ。

 その美女が、裸になって男と抱き合う。

 こういうシーンに免疫のない早紀は赤くなりながら、シャッターを切っていった。


(…これは盗撮じゃないよ。記録だからね。記録!)





 亜希子は徹を下にし、股間のモノを口にくわえた。

 チュパチュパと、いやらしく音を立ててしゃぶる。

 すぐに大きく硬くなってきたそれを、亜希子は一旦、自分に入れさせた。

 上になって大きく腰を動かしながら、女鬼に手招きする。

 タエが近づく。

 亜希子は繋がりを解き、徹とキスしながら場所を空けた。

 タエが嬉々として袴を脱いで徹にまたがり、徹との男女の繋がりを為す。そして激しく腰を振る。

 亜希子は唇を重ねたまま徹の手を取り、自分の胸の膨らみに当てさせた。


「あ、亜希子さん……。う、出る!」


「うお。入ってくる! 子種が入ってくる!」


 タエは歓喜の声を上げ、体をのけぞらせた。そして少し余韻を味わい、徹から離れた。

 手で股間を押さえている。せっかくの精液を一滴もこぼさないようにしているようだ。


「よし、次は我の番じゃ」


 カルが駆け寄るように近づいてきて、徹の股間を見て怒りだした。


「何じゃ、小さくなってしまって居るではないか。早くたせよ!」


「えっ、続けてですか? 少しお待ちを……」


 亜希子は慌てて徹にまたがり、両手を取って、自分の胸をもませた。


「もう一度よ! 根性入れてたせなさい!」


「そう言われましても、続けてなんて……」


「情けないこと言ってちゃダメ! 死にたいの!」


 亜希子は逆向きに徹にまたがり、自分の秘所を徹の顔に押し付ける。同時に、徹のモノをくわえ込んで必死に口を上下させる…。

 何とかんとか回復してきた徹のモノ。亜希子は再度向きを変え、いったん徹と繋がって腰を振り、硬くさせてゆく……。

 亜希子は手招きしてから、徹との繋がりを解いた。

 徹と唇を重ねながら場所を空けると、すぐに袴を脱いだカルがまたがって、徹と合体した。そして気持ちよさそうに腰を振る。


 タエは相変わらず、余韻に浸りながら目を閉じて自分の股間をもんでいる……。



 その時だ! 草叢くさむらから、恵美が飛び出したのは。


 恵美は少し前に到着し、様子をうかがっていた。チャンスとみて、飛び出したのだ。

 背後から音を立てず急接近する。


 手に持っていた金剛杖は、仕込み杖。抜刀して、直刀の刀となっていた…。

 その刀で、徹にまたがってヨガっていたカルの背中を、右上から斜め下に斬り裂いた。


「ぎゃー!」


 叫び声と共に、カルが飛び上がった。茶色の着物ごと、背中がザックリと斬れ、血に染まってゆく。

 斬られたカルは、うめきながら転がり倒れた。

 亜希子と徹も驚き、いずりながら逃げて、カルから距離を取った。


 タエは、股を広げてだらしなく股間をもんでいた……。が、いきなりの事態に、その姿勢のまま呆然ぼうぜんだ。

 恵美は、すぐに振り返り、そのタエに斬りかかる…。


 タエも我に返った。

 すんでのところでかわし、近くに置いてあった刀を取って抜いた。

 恵美の再度の打ち込みを、刀で受け、押し返す。

 恵美はその力で押され、後ろへ一メートルほど飛び下がった。


「なんて馬鹿力…」


 鬼の力は強い。おまけに、手にしているのは肉厚のゴツイ日本刀。

 対して、恵美は仕込み杖を抜いた細い直刀。明らかに分が悪い。


「よくも姉者を! 脳天から真っ二つに断ち割ってくれるわ!」


 上段から、物凄ものすごい勢いで恵美に打ち込んでくる。

 恵美の刀では受けきれない。やむなく、再度後ろに飛び退く。

 そして、タエの刀が空を斬ったのと同時に踏み込んで斬りつけた。

 が、相手も只者ただものではない。器用に刀を返し、恵美の打ち込みを受け止めた。


(…このままでは、マズイ。刀身が持たない…)


 恵美のひたいに、汗がにじむ。

 タエがニヤッと笑った。


(…こいつ、本気で私を真っ二つにする気だ)


 鍔迫つばぜり合い…。仕込みつえの刀とは言え、小さなつばは付いている。が、タエの怪力で、追いつめられる。

 隙が無い上に、後ろは崖…。はずしてけ下がることも出来ない状態となってしまった。

 もうこれ以上は無理だ。刀が折れれば、そのままザックリ押し斬られてしまう…。いや、それ以前に、この怪力、押し負けてしまう。


 タエの刀が徐々に恵美のひたいに近づく。


(もうダメだ…)


 が、その瞬間、音もなく矢がタエの首をつらぬいた。


「ゴフッ…」


 タエから一気に力が抜ける。

 恵美は、すかさず押し返し、タエの胴を横へ斬り払った。

 腹から血を流して仰向あおむけに倒れたタエに乗りかかり、着物がはだけてあらわになっている乳房と乳房の中央に、刀を突き刺す。


 ズブズブズブッ…。

 …体重をかけ、深く刺し込んでゆく。


「ゲフ、グウウ…」


 タエは心臓を貫かれた状態。

 手足をビクビクッと痙攣けいれんさせ、口から血を吐いて動かなくなった。


 恵美は、矢が飛んできた方を見た。


 低い赤松の上。地上三メートルくらいのところに、空飛ぶ巫女がいる。

 祥子だ。


「恵美、危ない!」


 その祥子が叫んだ。

 恵美は自分が組み敷いている相手を見る。もう息絶えている。


(違う。もう一人だ!)


 最初に斬りつけた鬼女カルが、髪を振り乱して迫っていた。

 手にしている刀はタエに深く刺していて抜けない。恵美は転がりながら、タエの持っていた刀を取った。


(お、重い!)


 恵美は構えようとするが、予想以上の刀の重さで反応が遅れた。加えて相手のカルは、異様に速い。手には短刀を握っている。刃を横に向け、切り裂く体勢だ。


(ヤバイ、間に合わない。腹を裂かれる)


 カルは恵美の腹をねらっていた。ハラワタを引きずり出してやろうと…。

 …が、走りながらの判断。刀の重さにヨロつきながらも体勢を下げ、刀身で腹を防御しようとする恵美を見て、狙いを変えた。

 腹を狙っていると見せかけて、一瞬で、その少し上! 恵美の胸を、カルの短刀が、物凄い勢いで切り裂いた。


「アウッ!」


 苦痛の声をらすも、恵美は動きを止めずに体をひるがらせて、一緒に斬られかけた腕を守った。

 カルは、次の一手で突き殺そうと、短刀を構え直して、振り返る。

 そこへ恵美は、振りかぶった刀を上から打ち込んだ。


「ギャー!」


 短刀を持っていたカルの、右手首が切り落とされた。

 と、同時に、カルの首にも矢が突き刺さった。祥子の放った矢だ。

 恵美は刀を取り直し、一閃いっせんした。

 カルの首がゴロっと落ち、首から血が噴き出した。

 頭部を無くした胴体は仰向あおむけに倒れ、血を吹きながらしばら痙攣けいれんした後、動かなくなった。



「恵美さん! 大変! 止血しなきゃ!」


 亜希子が、全裸のまま恵美に駆け寄ってきた。

 恵美の胸は、出血で血まみれ。骨までは届いていないが、ザックリ斬られている。

 苦痛で顔をゆがめながらも、恵美は笑って見せた。


「大丈夫よ~。もうじき慎也さんが来るから。うわ~ひどいよ~。おっぱいが四つになっちゃった」


 恵美は、切れて真っ赤に染まっている着物をはだけさせて、そっと胸を出した。左右の乳房が、ちょうど乳首のところで横にかれて、それぞれ上下に分かれて真っ二つになっていた。出血もひどい。

 祥子が恵美の横に降り立った。慎也も到着して駆け寄ってきた。


「うわ、恵美さん。酷い状態じゃないか。すぐ治すよ」


 恵美は胸に添えていた手を離し、慎也の方へ胸を出すようにした。慎也が手をかざすと、すぐに傷口が端の方からくっついて乳房が復元してゆく。


「えー! な、なに! 信じられない……」


 亜希子は、目を見張った。

 医者として見てはいけないもの(?)を、目の当たりにしてしまった……。

 完全フリーズ状態となる。…が。


「こら、亜希子よ。其方そなたは、早う服を着よ。いつまで裸でおるのじゃ。警官も間もなく来るぞ」


 祥子に指摘されて全裸であったことに気付き、慌てて亜希子は、服を着に行った。

 徹も同様…。



「美雪の友人は、どこかのう?」


と祥子がキョロキョロしながら、恵美に問う。


「あの対岸の草叢くさむらよ」


 恵美が指差した方、崖の向こうへ、祥子は真っ直ぐ飛んで行く。そして、草叢くさむらに隠れている早紀を見つけた。


 早紀はおびえていた。祥子を見て…。

 当たり前だ。空を飛んできたのだから…。


「こら。人を化け物のような目で見るな!

 助けに来たのじゃ。美雪の友人であろう?」


「は、はい」


 早紀は、何とかそれだけ答えた。

 祥子はうなずき、顔を引きらせている早紀をかかえて浮遊した。


「え、え~!」


 初めての飛行体験。早紀は体を強張こわばらせ、驚愕きょうがくの表情でキョロキョロ周りを見渡しながら、祥子に身を任せた。


(ひ~! こ、怖いよ~!この人、何で空飛べるのよ~!)

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