第39話 美月

 遅くなってしまい、皆、慌てて神社へ移動した。

 社務所を開け、受付に舞衣が坐る。

今日から舞衣、祥子、恵美が交代で坐ることになっている。


 沙織、杏奈、環奈は、総理の孫ということもあり、あまり顔をさらさない方が良い。

よって、もっぱら中でのお守り作りだ。

 しかしこれも、あと数日で発注してあるものが届くだろう。そうなれば、勉学に励んでもらうことになる。


 恵美は、朝の疲れた様子から一転、上機嫌だった。

 千里眼の力を手に入れ、宝珠なしで祖母と同様のことが出来る。

あれこれ試してみていたようだ。

 ……が、能力を使い過ぎて、昼頃には再びグッタリしていた。


 慎也と舞衣も、舞衣の思念伝達の力を有効に使用していた。

 舞衣は受付に坐りながら、何のお守りが少なくなってきている等の情報を慎也に伝えることが出来る。非常に便利だ。



「宮司さん、おるかえ」


 昼過ぎ。いつもの田中だ。


 慎也は疲れて休憩中。隣で恵美もダウン気味。

 舞衣は二交代目の受付で、祥子は沙織たちとお守りを作っていた。


「いや、相変わらず華やかで。うん? 宮司さん、お疲れか? 三号さんも」


「はい~。昨晩、あまりに激し過ぎて~」


 答えた恵美は、隣の慎也から今日四度目の拳骨を食らった。

 確かに、それも事実である。

が、今の彼女は単に能力の使い過ぎである。


「ああ、昨日きんのうは、三号さんの番じゃったのか。ほれ」


 田中は、栄養ドリンクを一箱持ってきていた。差入だ。


「うわ~。ナイスです~。有難うございます~。

でも、私の番って、何ですか~?」


 恵美は首をかしげながら、田中にいた。


「う~ん? じゃから、入籍の日は奥様じゃろ。その次の日が祥子さんで、昨日きんのうが三号さんじゃないのかえ。今日は四号さんかの?」


 その場にいた皆、顔を見合わせた。

そして、慎也は、ガックリうなだれた。

 まあ、普通は、そう思うだろう…。


 沙織と杏奈・環奈は顔を赤くしている。

 祥子と恵美はポカ~ンとした表情。


「いやですよ~。田中さ~ん! 違います~!

みんな一緒ですよ。マ・イ・ニ・チ!」


 恵美が元気な声で、愉快気に答えた。


「は? 毎日? みんなと?」


 机に伏していた慎也が顔を上げ、力なく頷くのを見て、田中は口を開けて固まった。


「いや~、毎日、四人相手か……。

宮司さん。儂、あんたを尊敬する!」


 …いや、六人なんですとは言えない…。


「ちょっと! 声が大きいって!」


 受付に坐っていた舞衣が、たまりかねて、また怒鳴り込んできた。顔が赤い。

 そして、受付前には若い三人の女性参拝客が、やはり顔を赤くして、気まずそうにしていた。


 田中は、ソソクサと逃げて行ってしまった。





 舞衣は、受付番でない時間に、後輩の細田美月に電話をかけた。

昨日、自分からしようと思っていたが、その後、恵美からも連絡を取るよう依頼されていた。


「ごめん、美月。十九日に無事帰ってきました。

いろいろあって、連絡が遅れちゃった。ほんとにゴメン」


『いいですよう。でも、良かったです!

今どこですか? 長野のご実家?』


「ううん? 今は岐阜県よ。

実はね、帰ってきた翌日に結婚してしまいました」


『は?』


「結婚しました」


『うそ?』


「ホント!」


『え、えええっ、え~!! 相手、誰ですか!』


「え~と……。

美月の、お腹の子のお父さん…。美月、ゴメン!」


『 ………。 舞衣さ~ん!!』


「ホント、ゴメン!」


『舞衣さ~ん。私の赤ちゃんのお父さんを盗るなんて~!』


「ゴメン……」


『 ……て、冗談ですよう~。この間のお返しで、一発殴らせてもらえれば、許しマス!』


「え……。うん、分かった」


『ちょ、ちょっとう、これも冗談ですってえ…』


「許してくれるの?」


『当り前じゃないですか。おめでとうございます!』


「ありがとう、美月。

で、私たち、あの時の女の子たちと共同生活しているの。

美月は、今どうしてるの?」




 美月は、五月二日に無事戻っていた。

 こちらの世界では、舞衣に加え、その妹分的存在だった美月まで居なくなって、大騒ぎになっていた。

 美月は戻ってすぐ、舞衣に敵対するメンバーの控室に仕掛けていた隠しカメラを回収した。勿論もちろん、これは違法行為。盗撮だ。だが、奴らの悪事をあばく為…。

 映像を全て確認し、ついに、見つけた。

黒崎・橋本が、自分たちが行った行為について話している場面を。

 美月は、決定的証拠部分をDVDにしたものを何枚もつくった。


 五月五日。

 マスコミを集めて、自身の引退発表をした。

 同時にその席で、DVDをばらまいた。

 …引退理由として。

 そして、舞衣の引退の真相として…。


 当然、輪をかけての大騒ぎとなる。

隅田川乙女組は解散に追い込まれてしまった。

 関係ない他のメンバーには、少し申し訳ない気もした。

 しかし、舞衣に対する嫌がらせを、見て見ぬ振りしていた者は多い。

 冬木プロデューサーも、もっと早く手を打っていてくれれば、こんなことにはならなかった。

 みんな、自業自得なのだ。


(もう、東京に居ても仕方ない。妊娠もしているし、実家のある滋賀に帰ろう。

でも、家族に妊娠のこと話したらどうなるかな。アパート借りて、一人暮らししようか……)


 美月は東京の部屋を片付けた。

 滋賀県内、だが、実家から離れたところに良い部屋を見つけた。

 その、引っ越しの手配を終えたところで、舞衣からの連絡があったのだった。


 舞衣には、一緒に同居しないかと誘われた。

 是非ぜひ、行きたい。

 しかし、今更全てキャンセルできない状態で、とりあえずは、滋賀へ引っ越しする。


(岐阜なら隣だから、その後は、また考えよう)


ということで、ある程度落ち着く五月三十日に、舞衣のところへ顔を出す約束をした。

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