第33話 離婚の危機?

 座布団を敷き、腰を低くして四人の客に上座を進める。


 恵美が、下座から見て左に。

続いて、沙織、双子の順に、奥の右側へと坐ってゆく。


 舞衣は、慌ててお茶を用意し、恐る恐る四人に出した。


 慎也は、対面の下座真ん中に。

お茶を出し終えた舞衣が、その左に。

祥子は、一膝下がって右に坐った。


 上座の沙織は、ブスっとした不機嫌顔。

双子は、恥ずかしそうにしている。

 恵美は相変わらずのポーカーフェイスで、お茶をひとすすりして湯飲みを置き、すまして言う。


「被害者の会を代表しまして~、私から申し上げま~す」


 一呼吸置き、慎也をジロッと見る。


「あなたは~、自分がしたことを分かっていますか~?

未成年の乙女、それも~、二人は中学三年生の十四歳!

その純潔を奪って~、妊娠させました~。

さらには~、三人は現役総理のお孫さんで~す。

さ~あ、ただで済むと、お思いですか~?」


 一応成人している自分のことは棚に置いて、恵美はグイッと慎也に詰め寄った。


 慎也は青くなった。

 舞衣も困り、慎也の膝へ手を乗せる。


 後ろ右斜めから、祥子がささやいた。


「そうじゃなあ…。世が世なら打ち首獄門、曝し首じゃなあ……」


「ひ、他人ひとごとじゃないですよ、祥子さん!」 


 舞衣は、後ろの祥子をにらんだ。


 上座では、総理の孫である沙織が、への字口をして顔を横斜め上にそむけている。

 同じく総理の孫で中学生の双子は、恥ずかしそうにうつむいている。


「あ、あの~。あれは仕方なかったというか、そうしないと帰れなかったんですから……」


 慎也の返答に、沙織と恵美が、キッと彼をにらみつけた。


「妊娠させておいて、仕方がなかったは無いでしょう!」

「責任は~、キーッチリとって頂きま~す!」


 慎也は硬直した。

まるで、体が石化してしまったような気分だ。


(ダメだ、終わった!

よりによって総理の孫だなんて、絶対ただでは済まない……)


「さて~、どうしてもらいましょうか~」


 恵美が上目遣うわめづかいで言う……。

獲物を狙うヘビのような目つきだ。


 慎也は、そのヘビに睨まれたカエル…。


「ど、どうしろと……」


「どうすれば~、良いと思いますか~」


「うっ」


 質問で返され、言葉に詰まる。


 舞衣も、青くなって両手で口を押えている。


「妊娠させた責任~って言ったら~、結婚してもらうしかないですよね~。

舞衣さんと結婚なさったそうですけど~、残念ながら~そっちとは~、即座に分かれて頂きましょっか~」


「そ、そんなの嫌です!」


 舞衣が叫んで膝立ちになり、机をバンと叩いた。

 置かれている湯飲みがカチャッと音を立てる。


 祥子も同調して抗議の声を上げようとしたその時、それまでうつむいていた双子が、先に声を上げた。


「恵美姉様、もうこれくらいで!」

「舞衣様が、おかわいそうです!」


 恵美は、それまでの鋭い表情を急に変え、悪戯いたずらっぽい顔になって笑った。


「ははは~、そうよね~。

だ~たい、総理の孫三人とも妊娠していて、誰と結婚すれば?って話ですよね~。

かくいう私も妊娠してますし~。それに、そちらのお二人さんも同じ~。

で、舞衣さんと結婚で、祥子さんは良いんですか~?」


「ワラワは戸籍が無いからの~。結婚出来ないのじゃ。

よって妾にしてもろうとる」


「ですよね~。法的に重婚出来ないし、それしか無いのよね~。

というわけで、私たちも、それに乗っかりま~す」


「は?」


「ですから~、舞衣さんが正妻でしょ~。祥子さんは二号さん?

私たちは三~六号さんで~す」


「へっ?」


 キョトンとした顔の、下座三人。

 平然としている恵美。

 ほおを膨らませて不服そうな沙織。

 恥ずかしそうな双子……。


 ・・・。


 舞衣が、おずおずと切り出した。


「あ、あの~、意味分かってます?

祥子さん以下は、みんな内縁関係ってことになるんですよ」


「もっちろん、分かってますよ~。

内藤総理も御了承ですので~、これは決定事項で~す。否やは許されませ~ん」


(わ、訳が分からん。総理も了承? どういうこと?)

 慎也の頭の中はパニックである。


「まあ、約一名~、不服の人もいますがね~」


 その「約一名」の沙織が、怒り声を発する。


「だ、だって、こんなふしだらな!

お爺様も、どうかしちゃってます。あり得ません!」


 プリプリ怒っている姉を白々しそうに眺めながら、双子の妹の方が爆弾を投じた。


「こんなこと言ってますけど、お姉様もあの日のことが忘れられなくて、毎夜お部屋で一人もだえていますので…」


「環奈! なんてことを!」


 沙織の顔は、羞恥で一気に真っ赤になる。

 双子の、もう一人も続ける。


「お姉様は、慎也さんを独り占め出来ないから御不満なんでしょう?

でも、それはダメですよ」


「杏奈まで!」


 沙織は両手で顔を隠した。

 双子はそんな姉を放っておいて、一瞬見つめ合ってから一緒に言った。


「「私たちは、舞衣様の近くに居られるだけで幸せです!」」


「へっ?」


「「あ、あの、大ファンなんです!」」


 二人そろって、うっとりした顔で舞衣を見詰めている。


 見詰められている舞衣は、戸惑とまどいを隠せない。


 そういえば、この二人は仙界でも、舞衣の方ばかり見ていた。

 中学生が、交合・妊娠なんてことを全く抵抗せず受け入れたのも、憧れの舞衣がしていたからか……。


(俺は、どうでもいいのかよ)


 慎也は突っ込みを入れたくなったが、口には出さない。

 それに気付いたのか、双子は続ける。


「「もちろん、私たちも慎也さんでしたら、身をゆだねても……」」


 美少女双子に、恥ずかしそうにシンクロしながら見られると、慎也も目のやり場に困る。


「私も、忘れてもらっては困ります~。

で、四人の協議の結果~、私が三号さん、沙織が四号さん、杏奈ちゃんが五号さん、環奈ちゃんが六号さんです~。ちなみに、年齢順で~す」


「あ、あの、その三号さんとか、そういう呼び方、やめようね。世間体悪いし……」


 慎也が、ささやかな抵抗を試みた。

が、恵美は意に介さない。


「仕方ありませ~ん。事実ですから~!」


「よかったのう、主殿、これがハーレムというやつかのう。ほ~ほっほっ!」


(よ、良くない。絶対良くない!)


 慎也は、両隣を確認した。

 祥子は面白そうにしているが、舞衣は、やはり、微妙な顔だ。


「そういうことで~、今日から、私たちも、ここに住みま~す」


「そ、そんないきなり!」


 準備もへったくれも無い、突然の、思いもかけない要求…。

 目を白黒させている慎也をそっちのけに、双子が舞衣に駆け寄って両手でそれぞれ、舞衣の左右の手を取った。


「「宜しくお願いします。舞衣様!」」


「ま、舞衣様…?」


 舞衣の顔も引きつっている。


 慎也も開いた口が塞がらない。

 この二人は、間違いなく慎也じゃなくて、舞衣目当てだ。


 正面では、やれやれ…とあきらめ顔で双子の様子を眺め、額を指先でむ沙織。

 そして、面白がっているとしか思えないような表情の恵美。


 慎也は、抵抗を断念した。受け入れるしかないようだ。




「それはそうと、主殿、神社の方は良いのかえ?」


 そうだった。早く開けないと、また混乱する。


「私たちも、お手伝いしま~す」


 三人プラス押しかけ女房四人は、自宅を出て、急いで神社へと向かったのだった。

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