第9話 帰れない舞衣
「さてさて、困ったことになったのう」
部屋から出て来て、けっこう悲惨な姿になっている二人の近くに来ている。
「困ったって、何がですか?」
取り敢えず着物を着ながら、慎也が
「本来ならば、選択の巫女は、この時点で元の世界に戻るのじゃ。しかし、
そう言う祥子の視線を受けて、舞衣は目を見開いた。
「え? わ、私? 戻れないの?」
事態を把握すると共に、舞衣の顔は、絶望の表情に変わってゆく。
あんな
理由は、たぶん、選ばれた『龍の祝部』と普通の交合をしていないから…。
「いや、まだ可能性はあるが……」
「ど、どうすればいいんです?」
舞衣は希望の光を求め、祥子に身を乗り出した。
「うむ、
祥子は、舞衣ではなく、慎也に向かって言った。
「はい、『種馬』ってやつですね」
「た、種馬~!」
舞衣は、右手で口を押えながらも大きな声を出し、慎也を凝視する。
「い、いや~、さすがに面と向かってハッキリ言われると傷付くな…」
慎也は右手で頭を
「ご、ごめんなさい!」
「この後、何人かの女が送られてくる。それらの女が『
ちなみに、ワラワも千年以上昔のこと、
「ああ、そういえば、そんなこと言っていましたね」
「うむ。巫女は祝部の子を妊娠すると、元の世に戻れるのじゃ。
祥子は言葉を発しながら、舞衣を見た。
「えっ、に、妊娠…。またハードルが上がっちゃったのね」
それはそうだ。アイドルが妊娠なんて、ダメに決まってる。
……と、慎也は思ったのだが…。
舞衣の
「分かりました。お願いします!シテください!」
舞衣は、慎也の両手を取って、直球での性交受諾…。
「いいの? 妊娠だよ。それも俺となんて…」
慎也は、予想外の舞衣の発言と、その勢いに、一オクターブ高い声を上げてしまった。
舞衣は
「こら、ちょ~っと、待たぬか?」
いきなり始めてしまおうとする舞衣を、祥子が
「その前に、
そういえば、舞衣の着物は、田上の血で真っ赤な状態。おまけに舞衣自身からは、選択の儀の際の、
指摘されて、自分のあまりに
その上で、自分の体を、恐る恐る嗅ぎ、臭いを確認する…。
「二人で温泉に入ってこい。その間にワラワは、部屋の惨劇の始末をしておく」
「ご、ごめんなさい……」
舞衣は祥子に向かい、申し訳なさそうに、小さな声で言った。舞衣は部屋の中で吐いてしまっているのだ。ベッドや床は、舞衣の血でも汚れている。
祥子は舞衣に
慎也の方も、舞衣と似たような状態だ。舞衣と一緒にいたのだから、当然のこと。
が、祥子の視線は下の方…。
「
「へ? 嫌だ。何で知ってるの!!」
慎也の隣の舞衣が、大きな声で叫んだ。
羞恥で真っ赤になり、両手で顔を隠している。慎也も、もちろん、気まずい。
「いやいや、面白かった。良いものを見せてもろた」
祥子はケラケラと笑う。
どこからか、あの部屋の中の様子を見ていたのだ。
全く、油断も隙もない。このデバガメ妖怪は…。
二人は抗議の視線を祥子に送るが、祥子は知らん顔をしていた。
再度、祥子に
脱衣場にて、二人は並んで着物を脱ぎ、湯船近くまで移動。
慎也は、隣をチラッと見た。
ちょっと臭うけど、絶世の美女。緊張する…。
可能なれば、じっくり拝みたいところだが、恐れ多くて、とてもそんなことは出来ない。
舞衣の方も、隣に居ても慎也の方は見ない。が、少しして、意を決したように、慎也に話しかけてきた。
「あ、あの……。私に洗わせてもらえますか? そ、その、そこ」
舞衣は、顔は向けず、恥ずかし気に目だけで見て、慎也の股間を指差した。
「へ?」
慎也は、思ってもみない申し出に、次の言葉が出ない。
「私のせいで汚れてしまって。だから……」
慌てて股間を両手で隠し、慎也は答えた。
「高橋さんのせいじゃないよ。だ、大丈夫。自分で洗うから。それに…。
ものすごく気持ちよかったよ」
舞衣は、さっと視線を外した。
「いやだ、もう!」
どうやら、機嫌を損ねてしまったようだが、もちろん、舞衣は、怒っている訳では無い。お尻でというのは、舞衣から言い出したことだ。
ただ、祥子にデバガメされていたということが羞恥の極みであり、「気持ち良かった」の言葉で、自分もそれなりに感じていた、あの痴態が見られていたことを思い浮かべてしまっただけ…。
(ちょっと、
最後の余計な一言で舞衣の機嫌を損ねたことと、せっかくの申し出を断ったことに、少し、いや、かなり後悔しながら…。
慎也も、股間を入念に洗った。
しっかりと、それぞれで洗ってから、二人一緒に湯船に浸かった。
相変わらず、視線は合わせない。が、良いお湯だ。
おまけに、慎也のすぐ隣には、超絶美女の高橋舞衣。その舞衣と一緒に、お湯につかっている……。
舞衣がどう思っているかは分からないが、慎也にとっては、幸福以外の何物でもない。
「あ、あの、まだお名前聞いてなかった」
湯につかったまま、舞衣が突然切り出した。
そういえば、慎也は舞衣のことを知っているが、自分は名乗っていなかった。
「川村慎也です」
「私のことは、知ってますよね。高橋舞衣です。舞衣って呼んでください。改めまして、よろしく」
「こちらこそ、よろしく」
湯に浸かったまま、互いに顔だけ向けて、頭を少し下げ合う。
「私、ここへ来る前に引退宣言してきたんです」
「うん、知ってる。来る前に見たニュースで大騒ぎになってたよ」
「芸能界って、華やかそうだけど、足の引っ張り合いばかりのドロドロの世界。我慢できなくて一人になりたくなっちゃって…。
プロデューサーには祖母のところへ行くって留守電に入れておいたけど、祖母は亡くなってるから、自殺するんじゃないかと思われたかも。このまま帰れなかったら、自殺したことになっちゃうでしょうね」
二人は並んで、互いを見ないまま…。舞衣は少し上の方を眺めながら、そんなことを話した。
「帰りたい?」
との慎也の質問に、
「
舞衣は即答した。
「そうだよね、普通は帰りたいよね。俺は使命が終わったら帰ってしまう身みたいだから、こんなこと言うと怒られそうだけど、無人島のサバイバルとか、
舞衣は、慎也を見る。
「あ、俺は神主してるんだけど、宮司一人の神社でね。参拝者は少なくて時間あるし、畑と田圃もあるから、米・野菜は自給。釣りも好きで魚も自前。味噌なんかも自分で作ってるし、大概のことは出来るから…。一人で居ろと言われても、別に苦ではないし、やってく自信もあるよ。
ただ…、千年てのはちょっと、想像がつかないかな。祥子様は完全に超人だね。異能も使えるし……」
「お~い、いつまで入っておる」
その超人が
「のぼせるぞ。片付けは終わった。いい加減に出よ。着替え置いておくぞ」
一瞬見合った後、祥子の言葉に従い、二人そろって湯から出た。
慎也がチラッと横目で見た舞衣は、色白の肌が、ほんのり桜色になっている…。
濡れて陽光に光る肌。
最高のプロポーション。
舞い降りた天女の様…。
神々しいほど綺麗だった。
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