第19話 団長≠優しい(改)

※なんか違うと思って書き直しました。


 ルディーの神護は【強制移動サード・ワープ


 視界に写る範囲内の人や物を自在にワープさせる事ができる。


 バロンとマーシャ。

 2日前、ひどい別れた方をされた元カノと、その原因の浮気相手の男が目の前にいる。


 今度は2人が泣きそうだ。


「そいつ! 見たことあるぞっ! そこの緑髪の女ッ!」


 バロンが慌てて指をさしたのはティアナ。


「覚えてたんですね」


「どういうことだ……?」


「この際、言います。私はこのバロンという男にマーシャ・クラリエと会うよう頼みました。しかし、頼んだのはあくまでも接触のみ。流されたのは全部貴方が悪いんですよ、マーシャさん」


「……っ。き、聞いたでしょユーくん。アタシ、騙されてたのよ……この女にっ」


「……はぁ、解釈が間違っていますよ。私は流された貴方が悪いと言ってるんです。騙したなんて私を悪者にしないでください」


「ねぇユーくん! 私を信じるのよね? 彼女だもんね! アタシは! この女に! 騙されたのよ!」


 一言一言区切り、声を荒らげるマーシャの姿にゼロ団の女性陣は呆れた表情。


 俺もマーシャの考えは分かってる。


 本当は俺に信じてもらう事なんて微塵も望んでない。

 

 ただ、自分が生き延びたいから。

 この状況から脱出するために、俺を利用したいだけ。


 いつも自分のことばかり。


 ああ、思い出した。思い出したぞ。


—半年前—


『ユーくんってカッコいいわ』


 付き合っていた彼女は優しかった。

 だから、彼女の理想の男性として振る舞うようにした。


 けれど、次第に性格や金遣いの荒さが見え……


『こんな金じゃバッグ一つしか買えないじゃない!!』


『もっと高いものが欲しいのッ! 他の子はそれくらいが普通なのッ!』


『アンタってほとん使えないわよね』


 いつしか暴言が増えた。

 

 初恋だから。

 初めての彼女だから。

 初めてに囚われていた俺は、強引な要望にも応えられる情熱的な男を演じてきた。


 だが、限界が来たようだ。


 別れを告げられあの後、2人の後をついていった。

 入ったのは宿。その窓から見えた光景を俺はと後悔した。


「本当に良かったのか?」


「あんなのの事はどーでもいいからぁ。早くしよっ」


 お互い裸になり、抱き合う。

 俺には見せなかった白い肌。

 考えてみれば、一線を超えたことがなかった。


 ギシッギシッとベッドが軋む音に伴って、女の嬌声と尻肉の弾ける音が部屋中に響き渡る。


 聞いたことないメスの声。

 快楽に落ちる声。


(やめてくれ……俺にそんな声を……)


「おら、もっといい声で鳴けよッ。アイツの別れたんだから、もう心配ないよなぁ?」


 彼女は後ろから浮気相手にハメられ、悦楽の表情を模っていた。

 

(クソックソッ……クソッ)


 聞きたくないのに、見たくないのに……視線が外せない。


 俺に隠れて快楽を貪っていた。

 他の男と愛を囁きあっていた。

 その男が、結果的に彼女を寝取った。


 一通り笑い倒し、再開させる2人。


 その後、1人暗がりをとぼとぼと歩き、ようやく帰路についた俺は——


「っ、ぐすっ……っ……」


 泣いた。


 今思えば何故、俺は涙を流していた。

 悪いのは全部あっちだろ。

 俺が我慢して、気持ちを押し殺す必要があったのか?


 ——なんでこんな女のために優しくしてたんだろ。


「ねぇユーくん! 言ってやってよ!」


 マーシャの言葉で現実に引き戻される。


 男をふっかけたのは他人。

 だが、浮気を選択したのたマーシャ。

 寝取ったのはバロン。


 ……全部、彼女とそこの男が悪い。


「……うるせぇ」


「え?」


 自分でも驚くほど低い声が出た。

 いや、初めからこうしたけばよかったのか。


「身勝手なワガママ女のことを信用できると思うか?」


「っ!?」


 俺の変貌ぶりに女は言葉が出ないようだ。


 そういや、コイツの前では優しい彼氏を演じてたもんな。


「……俺、帰るわ」


 背を向け、歩き出す。


 もう、顔も見たくない。


「ユーくん待って。私もいく」


「……シーラ」


「お話聞くって約束だったでしょ?」


 ギュッと俺の腕にくっついてきたシーラ。

 やっぱりシーラは優しいな。


「ありがとうな、シーラ」


「うん」


 俺はシーラと共に、その場を去った。




「あーあー。元カレに見捨てられちゃって、可哀想ー」


 レイネがクスクスと笑う。


「当たり前ですよ。逆にここまで生かしておいたユベルさんが優しすぎます」


「はいはい、2人とも。殺す前提で話を進めない」


 残った0団の3人を見上げるマーシャとバロン。


 すると、マーシャが口を開いた。


「ア、アタシ悪くないっ! 殺すならコイツだけにしてよッ!」


「はぁ!? なんだとこのクソアマ! お前がアイツと別れたからこうなったんだろっ! お前が死ねよ!」


「アンタこそ、そこの女に唆されてアタシに近づいたからこうなったのよ! アンタが死ねッ!」


 自業自得。

 なんとも醜い争い。


 そんな姿に飽きたティアナが剣を抜き、ザクッと2人の前で地面に刺した。


「「ヒッ」」


 恐れ慄くように、一歩後ずさる。


「弱い人ほどよく吠えますね」


「ほんとほんとぉ。ルディー先輩、早くやっちゃいましょうよぉ〜」


「まぁ殺すのは彼の純潔を守ってくれた事に免じて許してあげましょう。"殺すのだけは"」


「……あーなるほどぉ。了解です」


 ルディーの言葉を聞き、レイネが不気味な笑みを浮かべたと思えば。


「ケルちゃん。食べちゃって」


「ガルウッ!!」


 ケルベルスがマーシャの右手にかぶりつき、簡単に引きちぎった。


「ギァァァァァァァーーッ!? い゙たい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いーーッ!?!?」


 無くなった右手を押さえ、少しでも痛みを紛らわすため、激しく身体を動かすマーシャ。


 その光景を隣で見ていたバロンは、ガクガクと足を震わせながら、青ざめていた。


 引きちぎった腕を険しい顔で見るレイネ。


「この手でワンコ先輩を触っていたなんて……汚らしい」


「……お、おいッ! 殺さないんじゃなかったのかよッ!!」


 泣き叫ぶマーシャに代わって聞くバロン。


「はい、殺さないですよ?」


「な、ならッ、なんで腕をッ」


「あー、ちょっと勘違いしているようですね。えーと、生きていれば殺したことはならないですよね?」


「は、はぁ?」


「あれ? 頭までバカなんですか? つまりー、傷つけても治せば殺したことにはならないですよね」


 傷つけても治せば殺したことにならない。

 言い方を変えれば、いくら傷つけても治せばまた傷つけられる。


 バロンはそう解釈した。


「……き、傷って誰が癒すんだよ」


「私が回復しますよ。綺麗に、元通りに」


 ティナアの神護は【祝福の聖歌ヒーリング・ブレス


 傷や病を癒すことができる。

 

「痛めて癒して痛めて癒して……もしかしたら、自分から殺してと志願するかも」


 ティアナの言葉でさらに血の気がなくなる。

   

「ユベルの苦痛を貴方たちにも味あわせてあげるわ。じっくりと……ね?」





〈あとがき〉


 元カノと浮気相手の行為の姿を見たらトラウマものですよね。

 第4話でユベルくんが無理に切り替えようとしていたのが、心苦しい……。

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