VS第0騎士団

第18話 舞台は整った

 ——目標が来ますよ。


 レイネがそう言った数秒後。

 物陰からゾロゾロ人が出てきた。


「人のアジトでドンパチやりやがって……1人ぐらい殺せよっ」


 フードを被った男が複数。

 その中でも発言していた大柄な男とユベルの目が合った。

 

「ん? あ、お前」


「あっ……」


「なんだバロン。聖騎士の奴の知り合いなのか?」


「知り合いつーか、コイツの女を奪っちまって。いや、コイツが捨てられたんだよ! ハッハッハッ!!」


 馬鹿にするように高笑う浮気相手の男こと、バロン。

 彼の笑い声に釣られて仲間も大笑い。


「聖騎士が俺たちみたいな荒くれ者に女を取られるとは、こりゃ傑作だなぁ!」

「聖騎士って偉そうで気に食わなかったけど、これはいい酒のつまみになる」


 ユベルが次第に渋い顔になる。

 

「つか、警備隊じゃなくて聖騎士だったんだな。それもいいところの0団……。なおさら女を奪って悪かったなっ」


 馬鹿にされるも関わらず、ユベルは何も言い返さない。


 ……早く済んでほしい。


 そんな表情を浮かべているだけ。


「ケルちゃん……——拘束」

 

 今まで黙っていたレイネが口を開く。

 3体のケルベロスがバロンの身体に纏わりつき、動きができないようにした。


「ちょ、はぁ? 何すんだよいきなりッ!!」


 ジタバタともがくも、そんな簡単にケルベロスの拘束が外れるわけがない。


 他の仲間も、急にバロンを襲ってきたことで武器を構えた。


「ほら、貴方たちも構えてください。本来の任務を忘れずに」


 団長であるカルトは自信を無くしたように項垂れているが、他の騎士は腹を押さえている者もいるが全員無事。

  

 何故なら、レイネがこの時のために殺さないで手加減をしていたから。


「私が何のために手を抜いていたのか……分かりますよね? 分かったら後は頼みますよ」


「いくよ、ユーくん」


「お、おう……」


 シーラはユベルの手を引き、レイネはケルベロスでバロンを抱えながら、洞窟の奥へと歩いた。



「さて……何から聞こう」


「何から聞きましょうか」


 バロンを地面に置き、見下げるシーラとレイネ。その後ろにユベル。


 シーラとレイネは表情は穏やかだが目が全く笑っていない。


 声は聞くものを必ず従わせてしまうような威圧感を感じる。


「まず……ユーくんを知ってる?」


「ユーくん? 後ろのソイツか。知ってるぞ。さっきも言っただろ? 女を奪ったって」


「ワンコせんぱ——彼は貴方に彼女を奪われて随分と悲しんでいたんですよぉ」


「けっ、知るかよッ。大体、彼女と別れたごときでナヨナヨしてるんじゃ、男じゃねぇーよ。聖騎士向いてないだろッ」


 現第0騎士団、団長であるユベルにその言葉はグサリと刺さった。


「誰も罵れとは言ってませんけど」


「ガッ!? げぼごぼごぼげほっ、ゲッ」

 

 突然、喉を押さえ苦しみ出すバロン。

 シーラの神護によって体内の水分が無くなったのだ。


「……はぁ、うるさい人」


 シーラは神護を解除。

 バロンは、はへはへと過呼吸になりながらなんとか息を整える。


「やっ……べぇって………死ぬかとおもった……」


 バロンの言葉にシーラとレイネはきょとんとした顔を見合わせた。


「「え? ふつーに死んでもらうけど」」


 ……え?


 バロンはもちろん、ユベルも唖然とした顔で2人を見た。


「まさか……無事で帰れると思ってるの? 自分が殺されそうになってることにまだ気がついてないの……?」


「仕方ないですよぉシーラ先輩。寝取り男……いえ、こうゆう最低なオスはみんなバカお猿さんなんですから〜」


 クスクスと高い笑い声が洞窟中に響き渡る。


「ちょっと待て2人とも! 殺すのはだめだろ! 規則違反だ!」


「規則違反……? ユーくんだって神護使ってたよね? 規則違反しちゃってるよ」


「うっ……それは仕方がなくて……」


「じゃあこれも仕方がないことです。まぁ乱闘の末、誤って殺してしまったって報告通せば処分も軽く済みますし」


 本当に自分を殺そうとしている。

 バロンは荒い息をなんとか抑え、口を開いた。


「お、お前らには関係ないことだろっ! たかが男が別れたぐらいで、なんで俺がこんな目に遭わないといけないんだよッ!」


 元々、捕まる予定だったことを棚に上げ、そう荒げ散らすバロン。


 シーラははぁ、とため息をつき。

 

「そんなの単純――だから」


「はぁ?」


 好き? 虐めるのが?


「ああ、勘違いしてますね。虐めるのが好きなのではなく、私たちはユーくんが好きなんですよ」


 こんな状況で好きだと伝えられたユベルは混乱。

 バロンは意味が分からないと眉間に皺を寄せていた。


「貴方は知らなくていいんですよ。片想いは時に、女の子を積極的にするおまじないのようなモノに変わることを……」


 ギロリと、シーラとレイネの目つきが変わった。

 

 先程の窒息の恐怖が抜けないバロンは、腰をずりずりと必死に後退させるが。


「逃げようとしないでください。――逃げるな」


 ビクッ!!

 

 神護や特別なことは何もしていない。

 掛けたのは声だけ。


 なのにバロンの身体はピタリと止まった。


「どっちからいく?」


「シーラ先輩からどうぞ」


「分かった」


 剣を抜き、バロンの首スレスレに刃を下ろす。


 シーラが次に何をするか、という時だった。


「ストップ」


 4人以外の声が響く。

 声の主は——ルディー。


「……邪魔するつもり?」


「シーラ、顔が怖いわよ。いつもの笑顔笑顔」


「あれぇ? ティアナ先輩が持ってきたのって……」


 ティアナの隣には四肢を鎖で捕縛された女性——


「なっ!? マ、マーシャ!?」


「……え、あ……ユ、ユーくん……」


「……ユーくん?」


 お互いの顔を見合うマーシャとユベル。

 ユーくん、と自分と同じ呼び方に不満げなシーラ。

 興味ありげにユベルの元カノであるマーシャを見つめるレイネ。

 無表情のティアナ。


 そして……


「さぁ、舞台は揃ったんだし始めましょう。——取調べ、を」

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