第3話 俺、ゼロ団抜けます

「——次は誰だ!」


 修練場の外に倒れる男たちを尻目に、残りの奴らを見渡すと、全員に目を逸らされた。


「こらっ! 目を逸らすんじゃない! さっさと来いやっ!」


 まだまだストレスが溜まったんじゃい!


 カモンカモンと、手を招いていると、後ろから鼻で笑われた気がした。


「皆さん、ワンコ先輩に怯えてるみたいですねぇ。ふふっ」


「ワンコ言うな」

  

 レイネ・シャーロット

 緩くパーマがかかった淡いピンク色の髪に茜色の瞳。そして、ゼロ団1の巨乳。

 去年入ってきた唯一の新人で、このように人懐っこいのか、小悪魔なのか分からない美少女。


 ブルンブルン


 レイネのたわわ実った乳が揺れるたび、「おー!」と周りから漏れ出す。


「ワンコ先輩に負けるくらいの弱々さんには、私の胸を見る資格はありません。自分の鍛え足りない胸板でも見ていてください。ザコ騎士さん♡」

 

「うっ……」

「あ、ありがとうございます……!」


 変態しかいねぇのか騎士団っていうのは。


 ちなみにレイネがワンコ先輩と呼ぶのは俺に付けられたあだ名が関係していて――


「また派手にやってるねぇー。『ゼロの番犬』のユベルくん」


 高身長を惜しげもなく晒し、やんわりとした笑みを向けてくるイケメンが現れた。


「んぁ? あー…パイセンだ」


「レオン団長だろ? まぁ、僕もお堅いのは好きじゃないからそれでいいけど」


 レオン・ガルバード


 サラサラの金髪にエメラルドの瞳と左下にある泣きぼくろが印象的。

 穏やかな顔立ちと柔和な雰囲気からリアル王子様と呼ばれている程の見目いい男。

 また、身体も見せびらかすような鋼のような筋肉。骨格もかなりがっしりしている。


 インナーがパツパツであり、他の団の女子がキャーキャー言っているのに気づいていないのか?


 そして第0騎士団の団長だ。

 男騎士は皆、この人を目標にしていると言っても過言ではない。

 もちろん俺も——


 レオンさんが現れ、集合の合図が掛かる。


 ん? 奥からまた誰か来て……


「あれ? 1団のミューラ団長だ」


 金髪を靡かせ、透き通るようなブルースカイでこちらを見る女騎士。


 第1騎士団のミューラ・フォルテ団長。

 レオンさんと同い年で、19歳という異例の若さで騎士団トップを誇る第1騎士団の団長に登り詰めた凄い人。

 特に女性人気が高い。


「やぁユベル。相変わらずの腕前だね」


「見てたんですか……!」


「ああ。型はまだまだ乱雑だが、剣術と身体のこなし方は我々と差はないと思う。これからも頑張って」


「あ、ありがとうございます……!」


 ミューラ団長に褒められるのは普通に嬉しい。

 お世辞とか言わないで、率直に感想をいう人だから。


「なんか僕の時と扱いが違うんですけどーっ」


 ムスッとレオンさんが頬を膨らませる。

 アンタがそれしても全然可愛くないんだけど。


「それで、なんでミューラ団長までいるんですか? レオンさんがニマニマして気持ち悪いのと関係が……」


「気持ち悪いは余計だ。流石ユベル副団長、察しがいい。……ふっふっふー、これを見よ!」


 レオンさんが得意げに手を見せる。

 中指には銀色に光るモノがあり……


「あー! だんちょーさんとミューラ団長が同じ婚約指輪を付けてるーっ!」


 シーラが真っ先に声を上げた。


 え、シーラさんも同じの付けてる!?


「いーや、僕もついに婚約してしまったよ。あっはっはっ」


「レオン……っ。何もこんな堂々と発表しなくても……」


「赤くなってるミューラ可愛いなぁ」


「も、もう……」


 ……イラッ


 他の団員が祝福の言葉をかける中、俺は……


 ——人の幸せが憎い。


 眉間にこれでもかとシワを寄せ、歯を食いしばっていた。


 ミューラ団長は別に問題ない。


 憎いのはレオンさん。

 イケメンで、強くて、性格をも良くて、聖騎士の高嶺の花であるミューラ団長と婚約して……。


 おいおい、なんだこのリア充、ハッハッ。

 世の中の非リアを舐め腐ったような待遇じゃないか。殺してやろうか……ッ。


「なんだユベル、嫉妬か?」


「……チッ」


「無言で舌打ちするなよ……。あと、握力で木刀を折ろうとするな。それ結構高いんだぞ。ほら、僕に言うことがあるだろ? ん〜?」


「オメデトウゴザイマス、レオン団長……。かぁー……ペッ!!」


「うんうん。嫉妬と殺意が籠った祝福をありがとう」


 ニコニコしていたレオンさんだったが、ふと、真面目な表情になり……


「僕は第1騎士団にいく。彼女の隣で戦い、その背中を護りたい。だからこの第0騎士団を離れることを許してくれ」


 その熱い眼差しに、彼の移動に文句を言う者は誰もいない。


「1団はレオンさんが入ることを許してくれたんですか?」


 ルディーが不思議そうに問う。


「もちろん許してくれなかったらよ。それどころか『1団の女神』を取りやがってッ! と嫉妬された。ミューラは男女両方にモテるからなぁ〜」


「レ、レオン……! 後輩たちの前で恥ずかしいじゃないか……!」


 照れてるミューラも可愛いなぁ、と惚気ながらレオンさんは言葉を繋げる。


「だから文句を言ってくる奴らは——片っ端から実力で黙らせたよ」


 一瞬、鋭い眼光なり、ゾクリと鳥肌が立つ。


 片っ端からって……第1騎士団って一体何人いると思ってんだよ……っ。


 改めて自分の弱さに苦笑しながら歯噛みする。


「おかげで副団長に就任しちゃったっ。いやー、これでミューラとお似合いって感じだね」


「ま、まぁ私に相応しい男はレオンくらいしかいないからなっ……!」


「そうそう。ミューラは僕だけだからね」


 うわー、レオンさん、独占欲凄そうー…。


「僕が移動することで、第0騎士団の団長がいなくなる。だから——ユベル・アスカルト、君をに任命する」


「あっ、俺?」


「ユベルの実力は僕に次ぐ2番目だ。僕が1番だけどね」


「うるせーっ。どうせ俺は2番だよ」


「ユベルは今副団長なんだし、そのまま繰り上がりということで。副団長にはルディーを任命するよ」


「レオン団長の任命、ありがたくお受けします」


 ルディーは一礼お辞儀する。


 団長、ねぇ……。

 

 ふと、自分の事について振り返る。

 

 聖騎士団は鍛錬はばかキツいが、仲間がいて、助けた人たちからお礼を言われて……毎日がそれなりに充実——

 

『あっ、理由も言わないとね。お堅い警護隊に勤めている男より、そこそこ金持ちの冒険者の方がいいから。アンタ休みが少ないでしょ? それに比べて冒険者の彼はほぼ毎日休みみたいなモノ。だから今よりも散財できるじゃない、アハッハッ!』


 ……昨日の事が頭を過ぎる。


 さっき身体を動かした時、無理矢理忘れたはずなのに。

 いつもみたいにバカ丸出しでテンション上げて、辛いことなんて思い出さないようにしたはずなのに……。

 

 聖騎士団はほぼ休みがないと言っていい。

 何故なら敵国や魔物の襲撃に備え、常に鍛錬を行なっているから。

 現場で実力を発揮できないと、聖騎士団に所属している意味がない。


 俺たち聖騎士団は自分の職業に誇りを持っている者が多い。

 しかし、護られる立場の者はどうなのだろうか?

 

 彼女の発言からするに、陰で活躍している聖騎士団のことは日常あたりまえの一部としか思っていない。


 自分たちが散財できるのは、それだけ安心して娯楽できる空間が保たれているから。聖騎士団や警備隊、冒険者のおかげなのに……。


 ——お礼さえ、言われないんだな。


 仲睦まじく腕組み歩く2人の姿を見ながら呆然と立ち尽くす。


 昨日の話には続きがある。


 あの後、1人暗がりをとぼとぼと歩き、ようやく帰路についた俺は——


「っ、ぐすっ……っ……」


 ——泣いた。


 甘やかしすぎたかもしれない。 

 俺が彼女を変えた原因かもしれない。

 酷いことも言われ、その時からこうなるなんて薄々分かっていた。


 けれど……


 人生で初めての彼女だっだから、傍にいたかった。


 自分なりに頑張ったのに……。

 いや、頑張ったじゃダメなんだ。


 目に見えるモノじゃないと価値がないんだ。


 あー、俺、もうダメかも……。


「ユベルどうした?」


 黙り込む俺にレオンさんが声を掛ける。


「……俺、団長とか無理です」


「ダメだ。なれ。団長命令だ」


 こういう時だけ団長命令を使ってくるとかズルい……。


 いつもなら「やれやれ、仕方ないなぁ」と俺から折れるのだが、今回はそういう気にはなれなかった。


「どうしてそこまで拒む。団長になれないわけでもあるのか?」


 ミューラさんが問う。


 全員の視線が俺に注がれた。


 団長に俺が務まるのか。

 レオン憧れの人さんの後任なんて……。

 ましてや、こんな優柔不断な気持ちで聖騎士なんか……。


 こう言う時ってなんて言うんだっけ……。


 フワフワと意識が朦朧としている中、自然と口が開いた。


「……だって俺、ゼロ団から」



 

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