第2話 アルティア王国、第0騎士団

 アルティア王国、第0騎士団。

 

 前線に行くよりも、王女様や聖女様、上級貴族などの特殊な警護任務を担当することが多い部隊。


 入団試験に合格した者は、6つある部署の内、どれか1つに配属させられることになっている。


 しかし、その中に第0騎士団は含まれていない。


 選考基準は、入団試験で試験官役の騎士との一対一と入団試験生によるグループ別総当たり戦の2つの模擬戦の総合評価で決まる。


 第0騎士団だけはそれに加え、国王と6つある騎士団の団長に認められた者だけが入れる狭き門。


 最後の切り札。

 幻の7つ目の騎士団。

 王国最強部隊。


 騎士の誰もが一度はその称号に憧れ、目指す。


 俺はその第0騎士団に所属している。

 しかも、副団長という立場だ。


「あー……メーデーメーデー……」


 翌日の早朝6時。

 騎士団の朝は早い。

 この時間帯は朝練を行っている。


 今は第0騎士団専用の修練場で、胸当てを付けて模擬戦を行う仲間をボーと見つめていた。


 カカカカカカッ!


 目にも止まらぬ速さで木刀がぶつかり合う。

 これだけ高速連打しているのにも関わらず、重心はブレず、一瞬の隙ができてしまえば勝負が決まると言っていいだろう。


「ゼロ団すげーっ!」

「さすが王国最強部隊!」


 目の前で繰り広げられている激闘に休憩中に抜けてきたのであろう、他の団の騎士たちが興奮気味に観戦している。


 アルティア王国第0騎士団。

 省略してゼロ団と呼ばれることが多い。

 エリート中のエリートが集まる団として、各騎士団から一目置かれている。


 入団希望も毎年、どの騎士団より多いが、去年は1人しか採用しておらず、合わせて6しかいない。

 流石に少ないので、第0騎士団第2番隊という補佐隊がある。


 って……呑気に内部の構造について説明してる場合か。


 あー、俺はまた非リアに戻ってしまった。


 手を繋ぎ、横互いの顔を見つめ合う2人の後ろ姿を呆然と見る寝取られ被害の俺。


 出る言葉もなく、崩れ落ち――バッドォエンドォ!!


 ……ざっけんなよ金目当てで向き合いやがって!


 あと2年もすれば成人の儀を迎え、いよいよ大人の仲間入り。婚約を申し込むつもことを考えていた。


 なのに……別れるなんて……。


『じゃあね、脳筋さん。立派に警護おしごとできるといいでちゅねー、ププ』


 腹の底から尊厳を踏みにじられた屈辱と怒りが込み上げてくる。


 バカにしやがって……こんなの、絶対許せるはずがないッ。


「――やめっ!」


 凛とした声が響く。

 視界の端っこに映るルディーの声で模擬戦が終わった。


 はぁ……次、俺の番じゃん……。

 今の落ち込んだテンションじゃ、なす術もなく木刀で打ち込まれて、ドMに目覚めちゃうかも……。

 

 いや、あの寝取り男だと思って相手すれば自然と力が湧いて……。

 

「ユーくん、まーけーたよぉ〜〜!」


「ちょっ……シーラ抱きついてくるんじゃねぇ!?」


 木刀を持ち、ヨロヨロと立ち上がったところで、汗だくのシーラが胸当てを外したインナー状態で勢いよく抱きついてきた。

 よろけそうになったが、抱き止めることに成功。


 シーラ・オルフェル

 ミルキーブラウンのハーフテールに、淡いピンク色の大きな瞳。ぴょんぴょんと跳ねるごとに揺れる巨乳。

 小さい頃からの幼馴染で、何故か、聖騎士団まで付いてきた腐れ縁の美少女。


「ユーくぅぅん〜〜」


「汗を拭けって! ベタベタするだろッ!」


 仕方なく、俺のタオルでせめて顔の汗だけでも拭いてあげる。


 昔は泣き虫の弱虫で、俺の後をすぐについていていた。

 とにかく目が離せない少女で、今の状態を見ると少し、甘やかしすぎたかもしれないと反省している。


「ふえーん、ユーくんにカッコいいところ見せたかったよぉ〜」


「あーはいはい。カッコよかったぞ」


「ほんと? 私が1番?」


「ああ、1番」

 

「にふふ〜、やったぁ〜」


 適当に言ったが、機嫌がいいなら良し。

 あと、ニコニコしながら頬ずりやめろ。


 汗だくの巨乳幼馴染に抱きつかれるとか、別にご褒美とかじゃないんだからねッ!


「ほらシーラ。ユベルは今からアタシと模擬戦なんだから離れなさい」


 俺と一緒に模擬戦を見ていたルディーが指示する。


 ルディー・ローズ

 深紅のお嬢様結びに、琥珀色の吊り目。同年代と比べれば膨らんでいるだろう胸。

 一見怖そうだが、根は倒見のいいお姉さん。貧乳っていうとめっちゃ怒るけど。


「やだぁー」


「やだーじゃない。このまま模擬戦に行ったら、乱れ打ち喰らわせられるぞ」


 シーラを剥がし、胸当てを付ける。


「シーラは一度隙を突かれるとそのままズルズルいっちゃうから、劣勢の時を意識して訓練に励むように」


「了解です!」


「ユベル、アンタからは?」


 正直、模擬戦はほぼ見てなかった。

 バレないように確実なことを言おう。


「んー…ティアナは胸当てが合ってないと思うから変えた方がいい。このままではおっぱいバーンしてしまう」


 俺はシーラの対戦相手で勝者であるティアナにアドバイスしてみた。


「あ、ぅ……」


 ティアナは顔を赤らめ、髪の毛で顔を隠す仕草を取る。


「やめなさいってば!」


「ガフッ!?」


 ルディーに後頭部を思いっきり叩かれ、舌を噛んでしまった。


 い、いでぇ……。


「アンタがそんな事を言うからティアナが男性恐怖症になるんでしょうが!」


「ご、ごめん……ティアナ……いてて……」


「わ、私……ユベルさんなら、だ、大丈夫ですから……っ!」


 ティアナ・シフォルド

 片方だけ編み込みが入った青緑色のセミロングに、紺色のタレ目は彼女の優しさと気の弱さを表しているようだ。

 

 模擬戦前、胸当てを付けるのに苦戦していたから、サイズデカくなって合わないのだろう。


「ユ、ユベルさんの言っていたことはほんとで、胸当てがちょっと苦しかったです……」


「……。だってさ」


「……ユベル、今、アタシの胸見たわね? 貧相な胸だとバカにした」


 そこまで言ってねぇ。

 被害妄想が酷い……。


「ルディーさんルディーさん、模擬戦って木刀なんだよ。なんで手に剣を持ってるの?」


「貴方を刺すためかしら?」


 にこーっと黒い笑顔を見せられる。


 貧乳って言ってないのに怒った。

 俺、なんも言ってないのに、今からボコボコにされるんだ。


「あーまたアイツか」

「クソッ、騎士団屈指の美少女が集まっているゼロ団の女子と仲良く喋りやがって……」

「でもユベルって弱そうじゃね? ギャンギャン吠えて、負け犬みたいじゃん」

「もしかしたら、俺でも勝てるんじゃないか?」


 軽く屈伸運動をしていたら、俺を舐めているような発言が聞こえてきた。


 ——売られた喧嘩は、100%勝つッ


「あ? そんなに俺の実力が知りたいならかかって来いやッ! 勝った奴は俺と交代でゼロ団に入れてやんよっ!」


 俺の投げやりの言葉に男騎士たちは大盛り上がり。


「ユーちゃんの試合の審判、私したーい!」


「まーたユベルは勝手なことを言って……」


「あわわ……男性がたくさん……っ」


 我先にと、次々修練場に入っていく。


 こいつら……殺気凄ッ。人生で一番、やる気に満ち溢れてるだろ……。


 でも、まぁ……俺のストレス解消別れた恨みに少しばかり付き合ってもらおうじゃないか。


「んじゃ、第0騎士団副団長、ユベル・アスカルトにかかってこいよッ」


 集団で襲ってくる騎士たちに木刀を構える。


 ゼロ団の女子3人はやれやれと言った様子だっだが、俺が負けるなんてことは端から心配してないようだった。



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