第112話「朝の作戦会議」

ディーノ達、そして村民達が交代で警戒した事もあって、

結局、懸念された夜間の襲撃はなかった。


翌朝4時過ぎ……

ステファニーの提案通りに、対人喰いゴブリンの討伐会議が開始された。


敵は推定1万体。

このままだと確実に消耗戦となる。


そうなると補給がない上、

数でも圧倒的に劣る人間側はいずれ『じり貧』となり、敗北する。


敗北は単に負けるだけではない。

イコール死である。


押し寄せるゴブリンどもの大群により、ポミエ村は全滅するだろう。


悲観的に考えたくはないが、冷静に考えれば、厳然たる事実である。


この危機を打開する為、

死中に活を求めると言って過言ではない、ディーノの作戦が提案されたのである。


まずディーノが取得した情報を披露する。


「俺の戦友が、ゴブリンの本拠地であろう巣穴を見つけました。廃棄されたらしいふるい迷宮に巣食っているようです」


「ふん! それで? どうするのよ、ディーノ」


と、ステファニーが尋ねる。


昨夜、ディーノの覚悟を聞いただけ。

実施する作戦の詳しい内容は聞かなかったからだ。


「ステファニー様も認識されている通り、昨日襲って来た奴ら約千体も、ゴブリンども全体のほんの一部でしかない。大半は巣穴にいます」


「成る程ね」


「はい、それに元々、ゴブリンは夜行性です。陽がある間に、活動の鈍った奴らを一気にまとめて叩きます」


「納得したわ! ゴブリンは夜行性だから、昼間なら、少なくとも半分以上は巣穴にこもってる。それをまとめて殲滅せんめつするって事ね」


「ええ、その通りです。戦友ふたりも交えて戦います。ゴブリンと聞いて、購入した新兵器もありますしね」


「新兵器?」


「はい! 出発する際、冒険者ギルドで結構買い込みましたから」



ディーノは王都を出発する前、冒険者ギルドで、いくつか武器を買い込んだ。


武器といっても剣や斧ではない。

魔法を使った特殊な武器である。


「あ、分かった! いくつか箱入りの荷物を馬車へ積んだ、あれね」


「そうです。投擲とうてき可能な火炎弾です。ある程度、渡しますから、山火事だけは気を付けて、タバサの火属性魔法と合わせ技で使ってください」


そのタバサが気になったらしく、


「ディーノ、火炎弾とかって、相当高かったでしょ? 一体、いくら使ったの?」


と聞いた。


隠す事でもないので、ディーノは即座に答える。


「いや、火炎弾以外にも、いろいろ買った。だから……全部でざっと金貨100枚くらいかな」


「金貨100枚!? わあ、結構な大金よ。今回の依頼金が、金貨30枚だから完全に大赤字じゃないの」


タバサの言葉を聞き、びっくりしたのがオレリアである。


「えええっ! ディーノさん、貴方が使った分は、村のお金で返すわ」


しかしディーノは、首を横に振った。


「構わないさ、オレリアさん。お金ってこういう時、有効に使うもんだ」


「ええ、だって……金貨100枚よ」


「大丈夫さ。また稼げば良い。それとどうせ他の諸費用でも、そこそこ『持ち出し』をしているんだ。だから気にしないで」


「そんな……」


ここで口をはさんだのが、オレリアの祖父、村長のセザールである。


「ディーノさん、オレリアの言う通りですじゃ、村の金で、経費を払いましょう」


「いや、本当に良いんです」


ディーノが再び断ると、意を決したらしくオレリアが叫ぶ。


「うん! だったら決めたっ!」


「え? オレリアさん、決めたって何をだい?」


「私、王都で働くわ! 約束通り、ディーノさんの奥さんになって家計を支えるの! そうだ、飛竜亭で働かせて貰おう、ニーナさんと一緒に!」


「えええっ!?」


オレリアはやはり本気のようだ。


ディーノの妻になる決意は固いらしい。


「決定! という事で宜しくね、ディーノさん!」


ステファニーほどではないが、オレリアもやはり押しが強い。


ディーノを好きになる女子には、決まった傾向があるのだろうか?


そのステファニーが、話を元に戻す。


「まあ、そういうのはとりあえず、あとあと! まずは、ゴブどもに絶対勝つのよ! ディーノ! 私達鋼鉄の処女団アイアンメイデンは、村の守りを固めれば良いのよね?」


「はい、お願いします。昨日以上の数のゴブリンどもが、一気に来れば、この村はヤバイですから」


「だよね!」


「はい、念の為……戦友をひとり、『勢子役』で残して行きます。今度は上手くやってくれるはずです」


ディーノが『勢子役』に残して行くのは魔獣兄弟の兄ケルベロスである。


「勢子をやってくれ」とは指示したが、

今度は容赦なくゴブリンを倒して構わないと、ケルベロスへは伝えてある。


どれくらいの数をステファニー達へ『獲物』として誘導するかは、お任せにしてある。

ケルベロスならば任せて安心だろう。


ちなみに……

昨日、失策を犯した弟オルトロスは、汚名返上とばかりに、

『巣穴』への攻撃参加を志願していたのだ。

 

「なので、ステファニー様達には、襲って来たゴブの討伐と村の防衛をお願いします。基本は守り重視でヒットアンドウェイ作戦ですね」


「了解。あんたと一緒に、巣穴へ突撃して、大暴れ出来ないのは凄~く不満だけど……」


「すみません」


「仕方がないわ。あんたと、その戦友とやらを信じて、この作戦に賭けるから」


「ええ、信じてください。俺にはまだまだ、『奥の手』もありますから」


「ふうん……やっぱ、思った通り、私が知らない引き出しを、た~くさん持ってるのね」


「まあ……」


と、ディーノが口をにごした瞬間!

いきなりステファニーが目にも止まらぬ速さで動き、


ぶちゅっ!


ディーノの頬にキスをした。


「うわっ!?」


「何よ、ディーノったら、うわって!! 驚くんじゃなく、狂喜乱舞の大喜びしなさいよ! 勝って帰ったら、次はあんたの唇へ、私があっついディープキスをしてあげるわ」


「え、俺の唇へ? ステファニー様の熱いディープキス!?」


「ええ、そうよ! 勝利の豪華賞品は、美少女ステファニー様の、栄えある名誉の貴重なファーストキス、舌もふか~く入れてあげるから、光栄に思い、歓びなさい!」


「えええ!? し、し、舌!? ふ、ふか~く入れる!?」


「何よ! 私のベロチューが不満なの?」


「い、いえいえ、す、す、凄く光栄ですよ」


「ふん! きょどるんじゃないわよ! どうせ、恋愛未経験なあんたも、ファーストキスでしょ?」


「ま、まあ……そうですね」


「良い? あんたの『初めて』は全部私に捧げるのよ! 逆もしかり! これ、決定事項だから!」


「いやいや……そんな事、全然決定していませんから」


そんなやりとりも、

これから起こる激戦の前では、可愛いものである。

 

30分後……


ディーノは、オレリアへ頼んで村の荷車を借り、

ギルドから購入した秘密兵器を積み込むと……


自ら引っ張り、『ゴブリンの巣穴』へ出撃したのであった。

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