第23話「炎の飛燕③」

「ディーノ君、貴方は一体、何者になりたいの? そして冒険者に何を求めるの?」


厳しく真摯しんしな眼差しで問いかける、ほのお飛燕ひえんこと、冒険者ギルドマスター、ミルヴァ・ラハティ。


これまでに……

いろいろな人から、何度も同じ事を聞かれて来た。


しかし、いくら聞かれてもディーノは絶対にぶれない、

けして意志を曲げない。


ほぼ同じ答えを、真面目にひたむきに繰り返すだけだ。


「ミルヴァさん、お願いします、聞いてください」


「ええ、構わないわよ。ディーノ君の思う通り、存分に語ってみてちょうだい」


「はい! 本当にべたな希望と夢……なんですけど……ひとりぼっちになった俺は、いつの日か、愛し愛し合う『想い人』に巡り会いたい、その人を本当に大切にしたいんです!」


「ふむふむ、『想い人』探しかあ……なかなか素敵じゃない」


「は、はいっ! まだまだあります。俺は広い未知の世界も思う存分に見てみたい。そして自分が何者であるのか、どこまで行けるのかも……ぜひ知りたいんです。他にも新たな望みが生まれるかも、いや必ず生まれると思います!」


「ふふっ、相当な欲張りね。……成る程! 冒険者になるのは、将来の伴侶となる恋人探し、そして自分探し、更には未知なるものへの底知れぬ探求が目標なのね?」


「はい、俺は旅をしながら、自分の持つ可能性を探りたいんです。限界があるとしたら突破し、その先へは果たして行けるのか、行けた時に何があるのか見極めたい! たった1回しかない人生を懸け、思い切り挑戦してみたいのです」


「ふむふむ、それらの目標を達成する為には……やはり冒険者になる事が必須っていうか、近道って事かしら?」


「はい、その通りです。俺、必ず冒険者になります」


「必ず、か……そこまでディーノ君が冒険者にこだわる理由は何故?」


「はい! 父が冒険者だったから、後を追いたい! という理由は確かにあります。でもそれだけじゃ、ありません」


「では、お父さん以外の理由って何?」


「はい、先ほどもミルヴァさんへはお伝えしましたが、自分の限界の遥かな先へ行きたいんです」


「限界の遥か先にね……」


「はい! その為には生と死の狭間、ギリギリで生きる冒険者が最適だと思いました」


「成る程、生と死の狭間でギリギリに生きる、か……まさにそれは冒険者の生き様ね」


ミルヴァは、ディーノがする話が理解出来る!

という納得した面持ちで頷いている。


ディーノは重ねて言う。


「それに俺はもう、ある人の遺志を受け継ぎました。その人からは自分のようにこころざしなかばで果てた、無念の想いを継いでくれとも頼まれました」


「ある人の遺志? それを言ったのはお父さんではないのね……」


……やはりというか、ミルヴァはガストンと同じ念押しをして来た。


対して、ディーノは即座に首を横に振った。


「はい、違います。詳しい事は言えませんが、その人の大切な形見も併せて受け継ぎましたから」


「……形見なの?」


「はい! これです」


ディーノは胸に提げたペンタグラムを示した。

亡きロランの遺品である『銀製のペンタグラム』は鈍い光を放っていた。


ミンミは使い込まれたペンタグラムを見て感嘆する。


「わおっ! これは驚いたわ! 素敵な……というか……とても素晴らしい魔道具ね。底知れない強大な魔力を感じるわ」


「ありがとうございます」 


「それと貴方の左手、中指につけたその指輪!」


何と!

ミルヴァは指輪にも気付いた。

否、最初から気付いていたのだろう。


ディーノは、指輪の素性は伏せたまま、正直に出所を話す。


「は、はい! これも姉のような方から、亡き弟さんの分まで応援すると言われ、プレゼントして頂いたものです」


ディーノが答えると、ミルヴァは思い切り口笛を吹く。

興奮しているのが、彼女の放つ波動から伝わって来る。


「ひゅう! その指輪もペンタグラム同様に、凄い魔力を感じるわ! 両方とも大事にしなさいね」


「はい! 大事にします。片時も離しません」


ディーノの胸に光るペンタグラム、左手中指の指輪の双方を何度も見ながら……

ミルヴァは、しばらく考え込んでいた。


そしてゆっくりと視線を移し、ディーノの顔を改めて見つめ、大きく頷いた。


「よっし! 面談終了……ディーノ君は合格よ!」


「面談? 合格?」


「ええ! 貴方のこころざしはとても素晴らしいと思う。私にも大いに刺激となった」


「そ、そんな、おそれ多いです」


「うふふ。これはあくまで私見だけど……ディーノ君の考え方は冒険者の理想というか、あるべき姿って感じ……後は有言実行で目標を達成出来るよう頑張って」


「は、はい、じゃあ俺の冒険者登録試験は合格ですよね? あ、ありがとうございました」


ディーノは安堵した。

合格を貰えた。

それもマスター自ら。

後は登録証を受け取るだけだ。


が、しかし!

ミルヴァが訝し気な表情をしている。


「はぁ? ございましたぁ? って何、勝手に過去形にしてるの?」


「え? 勝手に過去形って?」


「まだ終わってないわよ、試験は」


「え? 試験が終わってない?」


「確かに面談は終わりで合格、だけど肝心の実技試験が残っているでしょ?」


「実技試験……そ、そうか!」


ミルヴァに言われて………

ディーノはようやく思い出した。

亡き父が言っていた。

冒険者ギルドの登録には実戦形式のランク判定試験があると。


「そうよ! 実技試験を実施しないと、大事なランク判定が出来ないでしょ?」


「ま、まあ……確かにそうですね」


「よっし! じゃあ善は急げって事で、私が相手、引き続き試験官よ」


ミルヴァが『試験官宣言』をしたのを聞き、驚いたのはサブマスターのブランシュである。


「え~~っ!? マスター自らですかぁ! 彼のような素人相手なんて! ぜ、前例がありませんっ!」


しかし、ミルヴァはブランシュの叫びを華麗にスルー。


「じゃあ、ディーノ君、すぐ支度して、貴方の根性を存分に見せて貰うわ」


おいおい……

根性見せろって、一体いつの時代だよ……

この人、超が付く体育会系?


ミルヴァの超が付く大時代的なセリフに呆れながらも……

駆け出しにもなってない自分が戦うのが、遥かに強大な相手という事実に、

ディーノは気持ちがたかぶって来た。


以前なら怯え、ガタガタ震えあがり……

速攻で、逃げ出していたに違いないのに。


もう昔のディーノとは違う。

過去の自分にはサヨナラだ。

 

よおっし!

ミルヴァさんは張り切っているようだけど……

俺だってやってやるぞ!

ダメで元々、ダメもとだ!


小手先で「ちょろっ」と「遊ばれる」かもしれないけど……

一寸の虫にも五分ごぶの魂。

精一杯戦ってやる!


冒険者に余力で圧勝した経験と事実が、ディーノの勇気とやる気を後押ししていた。


そう、微笑むミルヴァに対し……

ディーノは全く臆する事無く、激しい闘志を燃やしていたのである。

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