40.精霊術師、屁理屈を聞く
「ぼ、ぼぼぼっ、僕は無実だっ、だから、許してくれっ……!」
とりあえず、俺たちは詐欺師のドルファンを断罪するべく、モンスターに邪魔されないようにマールにアイスプリズンを使ってもらい、その中にいた。
これだけの証拠があるのに、一体何が無実だというのか。見苦しいにもほどがある。
「おいドルファン、てめえ詐欺師のくせによくも散々な目に遭わせてくれたな……!?」
「ひっ……!?」
ファゼルの斧が閃き、ドルファンの眼前に振り下ろされる。彼の怒り具合から察するに、俺のいない間に相当なヘイトを買っていたようだ。
「ルーシェはあんたのせいでマグマの中に落ちたし、あたしやマールは凌辱されたしで、ここで八つ裂きにしたって足りないくらいよっ……!」
「ひぎっ……!」
ドルファンの喉元にレミリアの短剣が埋まろうとしている。血も滲んでるし、いつ殺しても構わないっていう空気がひしひしと伝わってくる。
「……レ、レオン、たしゅけて、くれ。頼む、頼むからあぁあ」
なんで俺に助けを求めてくるんだか……。
「ドルファン……お前の白魔術で鉄壁は生まれたんだろう? だったらプロテクトをかけて自分の身は自分で守れ」
「しょ、しょんなぁ……お、お願いだから、あと一言、あと一言だけでもいいから、僕に弁明させてくれええぇっ……」
「はあ……」
本当に往生際の悪い男だな。筋金入りの詐欺師に今更何を言わせてもしょうがないだろうに。
「マ、マールからもお願いっ……えぐっ……一言でもいいからぁ、ドルファンに、最後の機会を与えてっ……!」
「「「……」」」
俺はお互いの意思を確認するように、ファゼルたちと目を合わせた。まあ、一言くらいならいいか、みんなそんな顔をしている。その決定権は助けた側の俺にあるみたいで、自分のほうに注目が集まっているのは見て取れた。
「……わかった。ドルファン、そんなに言うなら何か弁明してみるんだ」
「……あ、ありがとぉ、レオンさあん。マール、この恩は忘れないよっ。さぁ、ドルファンさん、ここで何を言うべきか、わかってるよねぇ?」
「……わ、わかっている……」
お、詐欺師ドルファンの口から遂に謝罪の言葉が飛び出すのか……?
「……レ、レオン、君に聞いてほしい。僕の白魔術は、特別なのだよ……」
「……え?」
だが、懇願するかのように俺を見上げるドルファンの口から飛び出したのは、予想の斜め上の台詞だった。
「レオンが精霊と仮契約すらできない状態だったのは、知っているだろう? それを、僕の白魔術が救ったのだ……」
「…………」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。なんなんだ、このトンデモ理論は……。
「し、白魔術というのは、いわずもがな、光の精霊と通じている。光の精霊は、見えなくなったものを発見するのに向いている。すなわち、レオンが探していた今の精霊と契約できたのは、僕のおかげでもあったのだ……!」
「な、なるほど……」
まあよくもこんな出鱈目な話を咄嗟に思い付いたものだと感心する。詐欺師としては確かに超一流なのかもしれない。
「わ、わかったら、今すぐ僕にひざまずいて感謝するとともに、パーティーに入れてほしいのだ。僕こそが、レオン、君の救世主なのだから……!」
「「「「「……」」」」」
ドルファンが語った壮大な屁理屈には、エリスとティータも含めて、全員が呆れ果てている様子。
「……ど、どうしたのだ? 嘘だと思っているのか? ほ、本当だぞ? これは正真正銘、真剣、真実、真正、真相である……!」
「……で、俺がなんの精霊と契約できたのか、わかるかな? 俺の救世主だって言い張るなら当然わかるよな……?」
「……しょっ、しょれはあぁ……」
ドルファンが目をグルグルと動かし始めたかと思うと、突然ニヤニヤと笑い出した。もしかして、もう弁解は難しいと判断して狂った振りでもするつもりなのか……?
「……とっ、とにかく、僕のおかげ、全ては僕のおかげなのだっ! 権力とハーレムと金! そのあらゆるものが、ぜーんぶ僕のものになるのだああぁぁっ……!」
「……さい、てい……」
「「「「っ……!?」」」」
意外なことが起こった。顔を真っ赤にしたマールがドルファンの顔を覗き込んだのだ。こ、この少女、目が据わっている……?
「どうしてそんなに欲張りなの……? ドルファンさんにはマールがいるでしょ? なんでそんなことさえもわからないの……!?」
「ごっ!? ぐがっ!? ごぎゃあぁぁっ!」
「「「「……」」」」
気が付けば、マールが泣きながらドルファンの頭を杖で繰り返し殴打していて、彼が白目を剥いたあともひたすら続けられた。
「もう、ここで死ぬ? マールと一緒に死んじゃう――?」
「――マ、マール、もうやめるんだっ!」
「は、放してよぉっ! ドルファンさんを殺してマールも死ぬんだからあぁっ!」
このままじゃまずいと思って慌ててマールを止めたが、一歩遅かったからドルファンは死んでいたな……。この男はほかにも山ほど罪状があるだろうし、楽には死なせたくないんだ。
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