22.精霊術師、熱を帯びる
「う……?」
「ん? エリス、どうかしたのか?」
エリスが困惑した表情で指差したのは、冒険者ギルドの一角にあるトイレだった。
「えっとね、レオン。あの辺から、誰かに見られてたみたい……」
「…………」
あそこから誰かがこちらを覗いてたみたいだが、今はもういない様子。まあ彼女はソフィアに引けを取らないレベルの美しさだしな、男ならつい見惚れてしまうのは仕方ない。
こうしていつも彼女と一緒にいる俺ですら、何気なく隣を見てドキッとすることがあるくらいだ。なんせ彼女は
「ねえねえっ、レオン、これからどこ行くのー?」
「あぁ、それはな、これからのお楽しみ――」
「――鍛冶屋さんでしょー?」
「うっ……さすがにバレバレだったか」
「もちろん!」
「あははっ」
まあ、ハティの爪と牙を2個ずつ、さらにはレアの大神の涙っていう貴重な素材を獲得したばかりなわけだからな。これをこのまま腐らせておく手はないってことで、俺はギルドを出ると例の工房へと向かうことにしたんだ。
「――あれ……」
俺たちはまもなく、目指していた工房に辿り着いたわけだが、あの鍛冶師のオヤジの姿はどこにもなく、その代わりにエプロンをつけたポニーテールの少女が鉄を打ち鳴らしていた。
ここでこんな作業をしてるってことは、彼女はオヤジの弟子の一人なんだろうな。あの人ほどの豪快さはないものの、丁寧かつ一生懸命に叩く姿には胸を打たれるものがあった……って、こっちに気付いたのかやめてしまった。
「あっ……何かご用件でありやすか?」
「あ、あぁ。これで孤高の指輪を作ってもらおうと思ってね」
「お、おおぉっ! こ、これはあぁっ……!」
「「……」」
少女がこの上なく目を輝かせながら素材を見つめてくるので、俺はエリスと呆れたような笑みを浮かべ合った。鍛冶師にとって良い素材を目にするというのは、まさに水を得た魚のような心境なんだろうか。
「――はっ……! 失礼いたしやしたっ! つい……」
我に返った様子で涎を拭う鍛冶師の少女。
「それくらい別にいいよ。ところで、いつものオヤジはどこへ行ったんだ?」
「どこ行ったのぉー?」
「親方のことなら、ただいま地方へ出張中でして、ここへ帰ってくるのは一週間後くらいかと……」
「あぁ、そうなのか……」
「レオン、残念だねー」
「そうだな、エリス、また来るか」
「うんっ――」
「――あ、あのっ!」
「「えっ?」」
その場を去ろうとしたら、鍛冶師の子に回り込まれてしまった。
「あなた方は、もしかして、この前サラマンダーの鱗をここに持ってきた方々ですね!?」
「あ、あぁ、そうだが……」
「やはり!」
「炎の鎧を着てるわけじゃないのに、どうしてわかったんだ?」
なんせあれは結構目立つから、身体能力が上がるとはいえ普段は装着しないようにしているんだ。特にエリスはあれを着るのが嫌というか、白いワンピースを身に着けることにこだわっている。
「実はあっし、この前親方から見せてもらったんですよ! アチアチなカップルに炎の鎧を作ってやったぜって。これはその余りだって」
「な、なるほど……」
「なるほどー。確かにレオンとわたしはカップルだからねー」
「…………」
エリスはカップル扱いされて凄く嬉しそうだ。そういう言葉はわかるんだな。
「あの、よかったら、その素材、あっしに任せてもらってもよいでしょうか……!?」
「「えぇっ!?」」
「あ、ちなみにあっしの名前はルコっていいやして、親方の一番弟子なんで、しっかりしたものは作れるかと! とはいえ、まだまだ未熟なところもいっぱいあるんで、出来上がるまでちょっぴり遅くなっちゃうかと思いやすが……それでもよければっ……!」
「……それじゃ、お弟子さんにお願いしようかな?」
「おぉっ! ありがてーです! うひひっ……」
俺は一瞬迷ったものの、すぐに承諾することにした。なんせ明日はソフィアとの約束もあるし、最近はダンジョン攻略の最速記録を立て続けに樹立してるってこともあって、身内バレしないためにも間隔を空けるつもりでいたから、オヤジの一番弟子の提案は渡りに船だったんだ。
「うおおぉっ! あっしはグツグツと燃え滾ってまいりやした……。独り身なのでカップルに対して若干嫉妬心はありやすが、お二人のため、スーパーアチアチな孤高の指輪を作ってみせやすよ……!」
「「……」」
袖を捲る鍛冶師の少女ルコの姿は、既に超アチアチな状態だった……。
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