2.精霊術師、喧嘩の仲裁に入る
「はあ……」
これで何度目だろうか。気付けば溜息ばかり出るのも仕方のない話だろう。
ギルドカードを見てもわかるように、俺は既にパーティーから追放され、生きるために金を稼ぐべく冒険者ギルドで依頼を探していたが、中々見つからなかったからだ。
Sランクパーティーから除外されたことでFランクの依頼しか受けられないわけだが、こうした依頼はモンスターとの戦闘を避けて通れないケースも多く、一人では難しいものばかりなんだ。
かといって精霊と仮契約すらできない精霊術師なんて需要がないからパーティーを募集したって意味がないと思うし、だからこそ俺は少ない給与の雑用係でもファゼルたちのパーティーにいることにこだわったんだ。
また同じようにどこかのパーティーの補欠として、荷物係でもなんでもやりますって頼み込むか? いや、もうさすがに精神が持たないだろう。なんとか一人でもできるような依頼を探して食いつないでいくしかない――
「――おい、てめえ!」
「っ……!?」
すぐ近くから怒号が響き渡って一瞬ビクッとしたが、俺に対してじゃないようだ。どよめきが起こる中、輪の中心で二人の男が睨み合っていた。
「なんだよ、おい」
「てめえ、今わざとぶつかってきただろ」
「あ? わざとじゃねえよクソ、おい、やんのか?」
「おうおう、上等だ、かかってこいよ、オラッ!」
「…………」
どっちも体格がよくて強面で、ピリピリとした空気をこれでもかと発していた。
こういう冒険者同士の喧嘩というのは珍しくなく、むしろ日常茶飯事ともいえるんだが、ギルド内でやるとなると話は別だ。椅子やらなんやら飛んできて危険極まりないので依頼を探すどころじゃなくなる。
しょうがない、俺が宥めてみるか。喧嘩を止めることに成功すると係員から報酬を貰えるケースもあるんだ。備品とか破壊される可能性があるからな。
喧嘩を止められずにボコられて報酬もないという最悪のケースもあるが、俺にはもう失うものなんてないんだしやってみる価値はあるだろう。
「そこの二人、喧嘩はやめ――」
「「――うるせえぇっ!」」
「ぐはっ!?」
止めに入った途端、俺は二人から殴られて転倒してしまった。
「正義マンかよ、こいつ! 俺は今最高に苛ついてんだよ!」
「おい、邪魔すんじゃねえ!」
「や、やめっ……!」
俺はせめて頭部だけは守ろうと頭を抱えながらうずくまる。
自分にだけ矛先が向いてるなら椅子とか破壊されずに済みそうだが、この分だと報酬を貰ったとしても治療するためのポーション代で消えそうだな……って、あれ? 全然痛くないだと……? 手加減されてるんだろうか?
「――お、おい、やめろよ! そいつ死んじまうぞ!」
「あそこまで蹴られたらもう助からないだろ……」
「可哀想に……」
「…………」
ちらほらと周囲から上がる声を聞いて察するに、手加減してる様子は一切ない。じゃあなんで痛くないんだ? 痛すぎて麻痺したとか……?
「はぁ、はぁ……や、やべえ、こいつ絶対死んだぞ」
「に、逃げろおぉっ!」
よくわからない展開になったが、喧嘩していた男たちは去っていったみたいだし、これって結果的に俺が止めたってことだよな。でも、麻痺してるならまともに立てるだろうか――?
「――あれ?」
普通に立てたし、そのことが余程意外だったらしく周りからオオッとどよめきが上がった。
なんなんだ? 体のどの箇所も全然痛くないし麻痺もしてない上、スムーズに動かせる。よく打ちどころが悪いなんて言うが、その逆もあったってことか……?
「おいあんた、よく無事だったな!」
「タフすぎるぜ!」
「やせっぽちなのに、人は見かけによらずだねえっ!」
「…………」
不思議なことが起こるもんだ。まるでドルファンから防御系の白魔術をかけられたみたいに防御力が桁違いに上がった感じだが、まさかな……。
「あの、大丈夫ですか……?」
「え?」
誰かがこっちに近付いてきたと思ったら、超絶美少女で有名な受付嬢のソフィアだった。それでまたどよめきが一層大きくなる。
彼女は熾天使というあだ名がつくほど冒険者ギルドのアイドル的存在で、凄くシャイな子としても知られており、誰に話しかけられても仕事以外のことは一切喋らないとまで言われる。まさかそんな人間離れした至高の存在から声をかけられるなんて……。
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