第252話 暗い部屋
暗い階段を上り、風呂上がりの髪を拭きながら自室へと向かった。そこは自室には違いないが、今は月夜が使っているのではない。ルーシが眠っているはずだ。
部屋の前にフィルが立っていた。月夜が来るのを予想していたようだ。あるいは、足音に気がついて目を覚ましたのか。そうでなければ、彼が何もしないで立っていることはありえない。
「もう、眠った?」
月夜が尋ねると、フィルは小さく頷いた。
「外からでは分からないが」
月夜はドアを開けて部屋に入る。部屋はあまり広くないから、布団を敷けば床の面積の大半が覆われる。その上にルーシが横になっていた。横になって横になっているのではなく、横になって上を向いていた。今は目は閉じている。
彼が自ら意識を失うのはいつ以来なのだろう、と月夜は考える。おそらく、彼はもう一人の自分の影響を受けて、自ら眠ることをしなかった。しかし、それでも問題はないはずだ。物の怪はもともと死んでいるから、眠らなくても体調を崩すことはない。
そうか。
ルンルンは彼を眠らせようとしたのかもしれない、と月夜は思いついた。
そう言い切れるだけの確証はない。単純に、一度で彼の息の根を止めることができなかっただけかもしれない。しかし、そうでなければ、傷を付けるだけで立ち去ったことの説明ができる。すなわち、ルーシはルンルンに力を奪い取られ、そのために意識を失った。それによって、もう一人の彼が出てくる余地はなくなった。ルンルンは、対象に憑依することで相手の力を奪い取る。その際に対象の意識が失われることは以前にもあった。
やはり、ルンルンが意図的に彼を眠らせようとした可能性は低い。しかし、完全にないとはいえない。何らかの手段で、彼女がルーシの特性を理解していた可能性もある。
「番は俺がしておく」フィルが月夜の傍にやって来て、彼女に言った。「お前ももう寝た方がいい」
「まだ、平気」
「眠たいんじゃなかったか?」
フィルに問われて、月夜はなんとなく自分の額に触れる。意味のないジェスチャーだった。でも、ときどきそういう動きをしたくなる。
「そうかもしれないけど、そうではない」
「下に行って、眠れ」
「じゃあ、そうする」
部屋の外に出て、階段を下りる。
途中で足が滑って、二段分を一度に下りることになった。
「大丈夫か?」頭上からフィルの声。
「大丈夫ではなさそう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます