第227話 会い
小夜が予測した通り、彼女が立ち去るのとほぼ同時に、フィルがやって来た。しかし、家はもうすぐ目の前なので、わざわざやって来ることに意味があるか分からない。ここで重要なのは、小夜の予測が的中したということだろう。やはり、彼女とフィルは何らかの手段で繋がっている。もちろん物理的なものではない。しかし、物理的というのがどこまでを含めるかということについては、別に考えられなくてはならない。
月夜の様子を見て、フィルは少々驚いたようだった。衣服や髪が乱れていたり、涙を流していたりしたから、当然といえば当然だろう。
「来るのが遅くなった」フィルが言った。「眠っていたんだ」
「こんな時間に眠るなんて、珍しい」
「ネコだから、いつでも眠るんだ」
「物の怪では?」
家への数十メートルを歩くまでの間に、月夜はたった今起こったことをフィルに聞かせた。ただ、聞かせる前から、彼にはだいたいのことが分かっていたようだ。これは、状況から推測したと考えられる。月夜を殺そうとするのは物の怪の可能性が高いし、小夜に呼び出されたということが、何らかの異常を示している。
家に着いて、とりあえず、リビングにあるソファに腰を下ろした。グラスにお茶を注いで一口飲む。首を絞められ、抵抗することで汗をかき、涙を流したから、正しい判断だといえるだろう。
「前に、うちで見かけたひとだと思う」月夜は言った。
「夜に家の敷地にいたという話か?」
「そう」
「夜行性だな」
「全能性の可能性がある」
「そう考える根拠はあるのか?」
「朝、公園で見かけた」
「そのときは、何もされなかったのか?」
「されなかった」月夜は頷く。「そういえば、千切られた葉を貰った」
周囲を探す素振りをしてみたが、先ほどのことがあったためか、葉はどこにも見つからなかった。もっとも、探す素振りをする前から分かっていたことだ。
少々、慌てているようだ、と自己分析。
死を実感したからだろう。
その反動で、生を感じようとしている。
生とは、すなわち、動ける自由があること。
だから、身体を動かしたくなる。
立ち上がって、月夜は洗面所へと向かった。風呂に入ろうと考えたからだ。
「その物の怪が、今日にまた来ない保証もない」フィルが言った。「心配だから、俺も一緒に入ってやろう」
月夜は振り返って彼を見る。
「いつものことでは?」
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