第204話 白頭中
暗闇月夜は、今も高校に通い続けている。彼女は高校生なので、当たり前といえば当たり前だ。しかし、高校での勉強は義務教育ではないから、やめようと思えばいつでもやめられる。
教室には彼女のほかに誰もいない。窓の外から微かに蝉の声が聞こえてくる。おそらく、ほかの生徒が登校してくれば、真っ先に教室の冷房を点けるだろうが、月夜にそのような願望はなかったので、今は窓を開けておく程度で良かった。
天井を見上げたままの姿勢で、彼女は固まっている。
少し前に、彼女は知り合いを一人失った。知り合いというのがどの程度の範囲をカバーする言葉なのか分からないが、とにかく、それまで自分の傍にいた人物と二度と会えない状態になった。失ったといっても、彼女が失おうとして失ったのではなく、現実に忠実に表現すれば、失われたといった方が正しい。しかし、自分に何らかの責任を想定した場合、それがまったくないとはいえない。したがって、結局のところ、喪失したということを述べていることに違いはない。
その知り合いというのは物の怪で、月夜に料理を食べさせ、それによって、彼女を殺そうとした。これだけ述べると何を言っているのか分からないが、事実としてそういうことが起きた。けれど、月夜は殺されず、代わりに相手が失われた。
そう……。
もう、彼女には会えないのだ。
一度失われると、失われた状態が継続する。
そして、その状態に果てはない。
知り合いを失った翌日も、月夜はいつも通り目を覚まして、いつも通りの生活をした。その物の怪の影響で暫く休んでいた学校にも、すぐにまた通うようになった。その判断は月夜にとって当然のものだった。休む必要がなくなったのだから、その通りに、休む必要がないと判断しただけだ。
ただ一つ、その物の怪と出会って、変わったことがあった。それは、今まで不規則にとっていた食事を、毎日とるようになったことだ。正確には毎朝とるようになった。
どうして自分にそのような変化が生じたのか、考えてもよく分からなかった。その物の怪は、月夜に食事をとるように促し、それによって、毎日食事をとる生活をしていたから、その習慣に慣れてしまった、ということも充分に考えられる。要するに、生活の在り方が変わったのは、生物学的な理由によるということだ。
しかし……。
それが真っ当な理由だ、と言える根拠はなかった。
月夜はそれに気がついている。
では、ほかにどのような理由が考えられるだろう?
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