第184話 回転する一方と随伴する他方
今は朝だから、街灯が点いてもさほど目立たない。足もとが照らされることもなく、顔を上げなければ、そのような変化が生じたことにも気がつかなかった。それに気がついたのは、偶然そこで顔を上げたからだ。こういうのを運命とはいわない。
街灯の上に誰かが腰かけていた。二本の脚をぶらぶらさせて、遠くの方を見ている。
彼が下を向いて、月夜と目が合った。
いや、彼の方から合わせてきたのだ。
真昼だった。
彼は街灯の上から飛び降りると、両足で華麗に着地してみせた。高さの割に衝撃は小さいようだ。物理の影響を受けにくいのだろうか。
「やあ、月夜」
いつものように、だらしがないのか、威勢があるのか分からない奇妙な立ち姿で、真昼が挨拶してきた。
「やあ」月夜はそれに応じる。
真昼は月夜の足もとにいる黒猫を見る。勢い良くしゃがみ込むと、真昼は彼を思いきり掴んで抱き上げた。
「何するんだ」フィルが抵抗する。
「もちろん、持ち上げるのさ」
真昼はわけもなくフィルの頭を撫で回すと、月夜に彼を手渡した。
「ここから先は、歩いてはいけないからね」真昼が言った。「彼を手に持っていないと、駄目だよ」
「どういう意味?」月夜は尋ねる。
「行けば分かる」
真昼はふらふらと移動する。いや、同じ場所を行ったり来たりしているだけなので、正確にはそれは移動ではない……、が、やはり移動には違いないだろう。
「彼女を追うんだろう?」急に立ち止まって真昼が言った。
「ルゥラのこと?」
「そう、それ」
それ、と月夜は胸中で繰り返す。
「そうした方がいい。彼女もそれを望んでいる」
「ルゥラのことが分かるの?」
「いや、分からない。ただ、なんとなく、そんな気がする」
「私も、そんな気がする、と思っていた」
月夜の言葉を聞いて、真昼は笑った。
「どんなことがあっても、動揺してはいけない」真昼は話す。「いや、してはいけないというのは無理だろうな。動揺してはいけない、ではなく、取り乱してはいけない、の方が正しいかな」
「何について話しているの?」自分の周囲を歩き回る真昼を目で追いながら、月夜は尋ねる。真昼が回ると自分もそれに釣られて回る。太陽と月のような関係といえるだろうか。
「君の将来について」
「私の将来?」
「君は、それを乗り越えなくてはならない」
「どういう意味? それ、の意味が分からない」
「すぐに分かるさ」真昼は言った。「数式が解けるのと同じだ」
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