第180話 normal
三人で同じ布団に入ると狭かったが、もう慣れたことではあった。三人といっても、一人は三頭身なので、それほどスペースを食うわけでもない。
「ねえ、月夜」
耳もとからルゥラの声が聞こえて、月夜は目を開ける。目を開ける必要はなかったが、反射的に開けてしまった。
「何?」ルゥラに倣って、抑えた声で月夜は応じる。
「明日もどこかへ行く?」
「どこかとは?」
「どこでもいいけど」
どうしようか、と月夜は考える。そろそろ学校に行かなくてはならないと考えていた。ルゥラの体調も大分良くなったからだ。
しかし、ルンルンのことがある。彼女はまた来ると言った。そして、また来ると言ったからには、その通りにまた来るだろう。前回はそれを示すために来たのかもしれない。
もう暫く、ルゥラの傍にいた方が良いだろうか。
「分かった」月夜は了承した。「でも、ルゥラは大丈夫なの?」
「何が?」
「身体は?」
「身体?」ルゥラは首を傾げたみたいだった。もちろん月夜には見えない。動きでそれが分かった。「どうして、身体?」
「前に、暴れられたから」
「ああ、あの人に?」ルゥラは首を左右に捻る。髪がシーツに擦れて音を立てた。「うーん、どうだろう。分からない。でも、元気に動けるから、元気だと思うよ」
それはそうだろう、と月夜は思う。
「ルゥラが大丈夫なら、どこに行ってもいい」
「うん、じゃあ、そういうことにしよう」
月夜も暗闇の中で頷いてみる。
「じゃあ、早く寝なくちゃ。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
沈黙。
傍にいるフィルをなんとなく抱き締めてみる。フィルはもぞもぞと動いたが、抵抗はしなかった。
自分は、あと、どれくらいルゥラと一緒にいられるのだろう?
どうしてかは分からなかったが、そんな疑問がふと湧くのを感じた。いや、それは今現れたのではない。ずっと前から抱いていた。それを今になって思い出したにすぎない。
シャッターのない窓から光が僅かに差し込んでいる。その光の発生源が何なのかは分からない。月なのか、街灯なのか、家の照明なのか……。
街中にはまだ沢山皿が残っている。月夜の自宅の周辺からはなくなったが、月夜の家の中にはまだ残っているし、遠くの方に行けばそこにも散らばっているはずだ。
ルゥラがいなくなったとき、自分はどうなるだろう?
……?
どうなる?
たぶん、どうにもならないだろう、という予測が即座に立つ。人はそう簡単に変わらない。特に変わろうとしない限りは……。
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