第166話 相槌

 フンコロガシは穴へ帰っていった。そこが家なのかは分からないので、帰っていったという表現が正しいかどうか分からない。


 フンコロガシはフンを持ったまま穴の中に入っていったが、その中にフンが沢山保存されているのだろうか、などと想像する。何のために使うのだろう。人間であれば肥料として使うこともあるだろうが、フンコロガシが畑作をするとも思えない。


 穴の中がどのような構造になっているのか見えないため、フンの行方は分からない。もし畑作をするにしても、地中でどのようにするのか検討がつかない。ここまでで、自分は何度文末に「ない」を用いただろうか。


「あああ、帰っちゃった」ルゥラが伸びをしながら言った。「月夜、ちょっとその穴の中に入って見てきてよ」


「どうやって?」月夜は尋ねる。


「うーん、なんか、小指の先を分裂させて、別の生命体として歩かせるとかさ」話しながらルゥラは笑顔になっていった。「それで、フンコロガシに向かって、フンを下さいって言うの。私の主が必要としているんです、だからどうか、どうかお譲り下さいって。でもたぶんそれだけじゃフンコロガシさんはフンをくれないから、こちらもフンっと威厳を見せつけて、くれないと今度は親指が来るぞって脅すんだ。それで解決すると思うよ。フンを貰ったら、月夜の欠けた小指の部分をそれで埋めて、余った小指の先の部分が今度はフンコロガシみたいになるの。何を転がすのがいいかな……。あ、じゃあ、爪? 小指の先に爪と分裂してもらって、そんな感じで転がしてもらうのはどう? あ、そういえば、ローラー滑り台のローラーって、なんで一緒に転がらないんだろうね? くるくる回っているんだよ。一緒になって、こう、ぎゅーんって転がっても不思議じゃないと思うんだけど……。昔ね、ローラー滑り台の逆方向から頂上に向かって上ろうとしたとき、滑って転んで大惨事になったんだ。それで、ローラーがずっと同じ場所で回り続けてるからいけないんだって気づいたの。滑るときに一緒に転がってくれればいいんだよ。そうしたら私が転ぶこともなかったし。あ、そうそう、それで小指の先には、爪を転がしてもらいたいんけど、名づけてツマハジキ。どう、良くない?」


 ルゥラははははと声を上げる。


 月夜は笑い続ける彼女をじっと見つめた。


「……え、何?」ルゥラはお腹を抱えたまま話す。「それってフンガイってやつ?」

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