第164話 彼女は花子であり花子でない

 世の中には、成立している物語と、成立していない物語があるらしい。しかし、それが物語である以上、両者ともすでに成立していると思われる。ここでいう成立しているか否かというのは、ストーリーに矛盾が認められるか否か、ということを言っているのだろう。


 成立していない物語、つまり矛盾が認められる物語は、一般的、大衆的には良い評価を受けないようだ。矛盾が認められる点がクローズアップされ、悪い印象が強く残るからだろう。基本的に矛盾という言葉は良い印象を与えない。


 しかし、現実世界では矛盾が一切許容されないのに対し、虚構世界ではそれが許容されることを考慮すると、矛盾が認められない物語は現実の側に寄っているということになり、現実との差が小さいことになる。そして、一般的、大衆的には、物語には非現実性が求められることを踏まえれば、むしろ矛盾が認められる物語の方が存在価値が高いということにならないだろうか。


 単に矛盾が認められるか否かではなく、如何に矛盾するかという問題もある。あまりに大きな矛盾は人間の理解に支障を来すが、物語は理解しなくてはならないものかという問題は別にある。それはそうとしても、矛盾には綺麗な矛盾とそうでない矛盾がある。大きな矛盾であっても、小さな矛盾であっても、それが綺麗な矛盾であれば矛盾を矛盾として受け入れることができる。


 綺麗な矛盾の場合、それが矛盾だと分かっていても、少なくともその物語に浸っている間は、その矛盾には意識が向かない。もっとほかのことに興味があるからだ。そして、そのもっとほかのことというのは、人間的というより、むしろ動物的な事柄であることが多い。たとえば、恋愛模様などがそれに当たる。恋愛は人間に特徴的なものではない。人間に特徴的な恋愛もあるが、階層構造を考えると「動物>人間」となる。


 矛盾しているか否かという判断は、人間的な観点から行われるが、物語が興味深いか否かという判断は、動物的な観点から行われる。そして、物語の最終的な評価には、後者の方がより深く絡んでくるようだ。それは、矛盾なく構成された物語が必ずしも面白いわけではないということから明らかである。


 最後に本稿の内容を一言で表すと、矛盾、となる。


 以上。

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