第153話 眠り眼を擦った先に
唐突に目を覚ます。周囲の音が聞こえるようになり、遅れてほかの感覚が戻ってくる。
頬の下に柔らかい感触があった。ルゥラの上に頭を載せて眠ってしまっていたみたいだ。特に眠たかった覚えはないのに、眠ってしまったのは不思議だった。不思議というか不可思議というか……。不思議と不可思議の違いは何だろう。同じような意味を表す言葉が存在するとは、不思議/不可思議だ。
「起きたか」
すぐ傍から声がする。振り向かなくても誰の声か分かった。
フィルが手を舐めながら月夜のことを見ていた。
「たぶん、起きた」月夜は答える。
「たぶん?」
周囲を見渡してみると、ある程度皿が片づけられていることが分かった。自分がどのくらい貢献したのか、月夜は覚えていない。フィルがほとんどを平らげたというわけでもないだろう。
窓の外が明るくなりつつあった。雨戸を閉めることを忘れていたようだ。
靴を履いたままだったので、玄関まで行って脱いだ。もう皿の破片を踏みつける心配はなさそうだ。一階にいる限り安全だが、二階に行くのはまずいだろう。そちらはまだまったく片づけられていないし、一階よりも遙かに量が多い。
いつも起床するのと変わらないくらいの時間だった。たぶん、ルゥラはこのくらいの時間に起きて、毎朝ご飯を作ってくれている。彼女は月夜が起きるよりも少し早く目を覚ます。そうしないと、月夜が学校に行く前に食事を提供できないからだ。
その日常が今日はなかった。
だから、少しだけ奇妙な感じがした。
いや、ルゥラに出会う前まではこれが普通だったのだ。
もとに戻ったと言った方が正しいのではないか?
ルゥラが眠っている隣に腰を下ろして、月夜は呆けた顔をしていた。いつもそんな顔をしているかもしれないと思いついて、可笑しくて少しだけ笑ってしまった。
「大丈夫か?」
フィルが傍に寄ってきて、月夜に尋ねる。
「大丈夫だとは思う」月夜はデフォルトの表情で応じた。「でも、たぶん、少し動揺している」
フィルは月夜の脚の上に飛び乗って、そのまま丸くなった。今度は彼が眠る番だということかもしれない。
「まだ、あまり俺たちのことを話していなかったな」
唐突にフィルが言った。
「フィルたちのこと?」
「俺と小夜の関係について」
月夜は彼の頭を撫でる。
「話してほしいとは思わない。知っていた方が有利になるのは確か。話したくないなら話さなくていい」
「そうだな。一度に全部というのは難しそうだ」
「知らなくても、フィルと小夜のことは好きだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます