第152話 掃除

 とりあえず、リビングにある皿を片づけることにした。片づけるといっても、相当な量があるので外に捨てるわけにもいかない。どうしようかと月夜が思案していると、仕方がないなと言って、フィルが月夜の前に皿を一枚差し出した。


「何?」月夜は首を傾げて問う。


「いいか? よく見ていろ」


 そう言うと、フィルは持っている皿を口に咥えた。何をするのかと思ったら、そのまま端の部分に歯を立てて、破片を口の中で咀嚼し始めた。咀嚼したら飲み込む以外にない。粉々になった陶器が彼の胃袋に流れていく様が想像された。


 手の込んだ手品でも披露したかのように、フィルは両手を広げて見せる。


「そうやって、街中にある皿も片づけたの?」


「まあな」


「美味しい?」


「美味しくはない。しかし、俺は何でも食べる」


「なるほど」


 通例、「何でも」が対象とするのは食べられるものの集合だ。そうでないものは対象としない。いつでも家に来て良いと言われて、では昨日お邪魔すると答えられないのと同じだ。


「食べられる量に限度はない」フィルが解説した。「だが、俺の気力には限度がある」


「どのくらい食べられそう?」


「最初には決めない。食べながら考えるんだ」


「なるほど」


「二回目のなるほどだな」


「それが食べるための秘訣?」


「食べるためというよりは、生きるためと言った方が近いかな」


 フィルと協力して皿を片づける。月夜には皿を食べる能力はないので、一枚一枚拾って部屋の隅に重ねることしかできなかった。しかし、それでも生活するためのスペースは確保される。


 空間に存在する絶対量が変わるわけではないのに、同じものを一ヶ所に纏めようとするのはどうしてだろう。そうした行為は整理と呼ばれる。そうすることで綺麗になったと感じるのだ。非常に不思議な感覚ではないだろうか……。


 掃除の途中でルゥラの様子を見る。彼女は年相応の子どもが精一杯遊んだあと、遊ぶのにも疲れてしまったかのような顔で眠っていた。彼女が人間と同じように疲れるなら、今は相当疲弊しているはずだ。


 きちんと目を覚ましてくれるだろうか。


 ……。


 自分が眠るときにも同じquestionがproblemとなるので、今は保留しておくことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る