第150話 突然怪異
月夜の首もとから手を離し、巨大な瞳の少女はルゥラの方を振り返った。
少し咳き込みながら、月夜は彼女に向かって声をかける。
「ルゥラに手を出さないで」
「なんで?」
「傷つけてほしくない」
月夜の答えを聞いて少女は笑う。
「傷つけなんかしないよ。ま、あいつの身体が弱くて、勝手に傷つくってんなら仕方がないけど」
二人の足もとを通り抜けて、フィルがルゥラの傍へと向かう。彼はルゥラの頬に触れると、舌で皮膚の表面を舐めた。
それを見ながら、月夜は無自覚に自分の首に手をやる。彼女もまた皮膚が裂けて血を流していた。大した傷ではない。しかし、怪我をするのが久し振りなので、少々精神が揺らいだのも事実だった。
「お前、ルンルンだな」
フィルが少女に向かって声をかける。
「そうだよ」大袈裟に身を翻し、瞳を大きく瞬かせて少女が応える。「お前も物の怪だろう? よかったな、乗っ取られるのがお前じゃなくて」
「ルンルン?」月夜はフィルに尋ねる。「彼女を知っているの?」
「知らなかったら、名前なんて口に出さないさ」状況に対して、フィルには余裕があるみたいだった。「まあ、知っているのは名前くらいのものだが」
「その子、気を失っているだけだよ」床に横たわるルゥラを指さして、ルンルンと呼ばれた少女が話す。「でも、幾分度が過ぎたみたいだ。可愛そうに。そんな小さな子が物の怪になるなんて」
「彼女に手を出すな」フィルが黄色い瞳を細めて忠告する。
「面白そうだから、きっとまた来る」少女はフィルの前でしゃがみ込むと、満面の笑みを浮かべた。「それまでの間お幸せに」
数秒の間、フィルとルンルンは見つめ合っていたが、やがてルンルンは立ち上がると、窓から滑るように立ち去っていった。身体の形状が変化して、黒い気体とも液体ともとれる何かが尾を引いた。
月夜はルゥラの傍に向かう。フィルの傍にしゃがんで彼女の顔を覗き込んだ。
「お前は? 怪我は大丈夫か?」
フィルに問われ、月夜は頷く。
「大丈夫」
暫くの静寂。
窓の外は大分暗くなっている。
「リビングに運ぼう」月夜は提案した。「ソファなら、皿を退かせば使えるようになる」
フィルは頷いた。
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