第119話 普通普通はないのが普通
ソファでルゥラが眠っている。
ソファの上でルゥラが眠っている。
ソファにルゥラが横になっている。
ソファの上にルゥラが横になっている。
きんぴらゴボウとヒジキの煮物を食べた段階で、月夜はそれ以上何も食べる気力がなくなった。いや、気力など彼女にはもともと存在しない。ただ、これ以上食べる必要はないなと思ったのだ。必要、不必要という考え方は、あまり好きではないが。
フィルが食べるのを手伝ってくれた。彼は物の怪なのに何でも食べる。焦点は、何でもか、食べるか、どちらだろうか。
「ルゥラは、うちにいるつもりだろうか」
紙ナプキンで口を拭きながら、月夜は呟いた。
「そうだろう」フィルが応える。「ほかに、どこに行ってもらうんだ?」
「小夜の所」
ルゥラが家にいたとして、それで困るようなことはなかった。ただ、ルゥラが困るか否かは別問題だ。まだ彼女の意向は聞いていない。
散乱された皿に関しては、これからどうすれば良いだろうかと月夜は考えた。どうしようもないという結論が出たうえで、そのような問いを自分に投げかけている。大抵の場合、補足疑問文は、補足されることを望んで生み出されるのではない。
ルゥラ自身にどうにかしてもらうというのが、現時点での真っ当な解決策に思えた。解決策といいながら、解決に直結するような内容は伴っていない。ルゥラがどのような原理で皿を発生させるのか分からない以上、月夜にはその程度しか考えることができないというのが、正直なところだ。
「放っておけばいいさ」フィルが意見を口にした。しかし、彼の意見は大抵その種のものなので、大して参考になるようには思えなかった。
「放っておいて、どうするの?」月夜は補足疑問文を口にする。けれど、彼女の疑問文は大抵その種のものなので、大してエキサイティングには映らないように思えた。
「どうもしない」フィルは即答する。「そういう状態が、今後の普通だと自分に言い聞かせるだけだ」
なるほど、そういう処理の仕方も良いなと月夜は思った。
日常が破壊されると思うから、いつまでももどかしいままなのだ。いっそのこと、変わってしまった新しい状態を日常だと思えば、安寧を得ることはできるはずだ。
ううん、という声が聞こえる。
月夜は後ろを振り返る。
小さな瞳と目が合った。
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