第116話 点と点

 自分は


 どうして


 生きているのだろうと


 考えることが


 ある。


 考えたところで


 どうにも


 ならないが


 一方で


 考えることで


 何かしらの


 活路が


 開けるのではないかと


 そういう気も


 しないわけでもない。


 結局の


 ところ


 自分という


 存在に


 価値を


 見出したいだけなのだろう。


 どうしてか


 どうしてかと


 いつまでも


 考え続けることによって


 結論を


 出すのを


 先延ばしに


 しているだけなのだ。


「まあ、そうかもしれない」


 坂道の途中でフィルが言った。


「しかし、それでいいじゃないか」


 背中にいるルゥラの位置を修正するために、月夜は軽くジャンプをする。


 小さな唸り声。


 力が入れ直される二本の腕。


「それでいいじゃないか、というのが、すでに先延ばしにしている」月夜は言った。「それでいいじゃないか、というのを、それでいいじゃないか、というふうに解決している」


「円環構造や矛盾の類は、優れたシステムには必ず含まれるものだ」


 それでは


 考える


 方向が


 違うのではないだろうかと


 月夜は


 思う。


「帰納的に考えていいものなの?」


「いいものさ」月夜の問いに、フィルは笑って答えた。「人間の思考の大半は、帰納法によって成されている」


 フィルの言ったことを月夜は検討する。暫く頭の中で問題を転がしてみたが、すぐに結論は出そうになかった。おそらく、データ不足に起因している。自分の中で内省判断をすることは可能だが、それが裏づけとして使えるか分からない。自分は色々な部分で平均から外れているらしいからだ。


 人。


 人。


 人。


 どこに


 行っても


 どこまで


 行っても


 人


 人


 人の


 群れ。


 自分は


 人の


 中で


 生きていると


 感じる。


 でも


 自分が


 本当に


 人なのかは


 確認したことが


 ない。


 確認の


 しようも


 ない。


 けれど


 皆


 自分が


 人に違いないと


 そう


 思い込んで


 生きている。


 どうして


 そんなことが


 できるのだろう。


 不思議だ。


 奇妙だ。


 そして


 おかしい。


 おかしいのは


 自分の


 方だろうか?


 ?


 ?


 ?


 そして


 人。


「ルゥラが落ちそうだぞ」


 フィルに言われて、月夜はまたその場でジャンプする。


 坂道を上りきる。


 自宅に向かうには、そのまま道を進めば良い。まだ傾斜はついているが、今まで歩いてきた道のりに比べれば緩やかだ。


 横断歩道を渡った先に、白い制服が浮かんでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る