第102話 さらに料理
眼前に皿が並んでいる。その上に、必ず何かしらの料理が載っている。一つ一つの量が多いわけではないが、バリエーションに富んでいて、何かどこかのバイキングにでも来たみたいだった。月夜にはバイキングに赴いた経験などなかったが。
玄関の外に立っていた少女が、今はキッチンで舞い踊っている。彼女は料理が得意なようで、月夜の自宅の冷蔵庫にある食材を使って、勝手に料理をしている。別に大して困ったことではなかったが、冷蔵庫で保管されている状態の方が、調理された状態よりも保存のポテンシャルは高いので、そういう意味では少々困った。
一通り料理を作り終わったのか、少女がリビングに戻ってくる。彼女は手に土鍋を持っていた。小さいものだが、湯気が上っていて如何にもそれらしい。テーブルの中央にある鍋敷きの上に鍋を置くと、両手に嵌めていた厚手の手袋を外して、少女は月夜の隣に腰を下ろした。
「はい、どうぞ」
どうぞ、と言われても、月夜には何がどうぞなのか分からなかった。もちろん、目の前に並べられた料理を食べろということだろう。しかし、彼女はそんなことは望んでいない。自分の家で誰かに料理を作ってもらおうなど、今まで考えたことはなかった。
朝食にしては明らかに豪勢だった。たぶん、冷蔵庫の中は今は空に近いはずだ。月夜はほとんど買い貯めをしない。買っても消費する目処が立たないからだった。
「食べないの?」
なかなか箸に手をつけない月夜に向かって、少女が尋ねてくる。
「食べるけど、こんなには食べられない」
「……なんで?」
「あまり、慣れていないから」
「何に?」少女の目はきらきらと輝いている。白馬の王子様を見ているからではない。
「食事に」月夜は素直に答える。
「食べないと、生きていけないんだよ」
「うん」
「どうして、慣れるとか、慣れないとか、そういう話になるの?」
「私は、平均よりも食べない、ということ」月夜は説明する。「人間は、基本的に毎日三食とらなければ、生きていけないという前提のもとに、貴女は話しているんだろうけど、私は、その基本から外れている。つまり、例外的な存在である、ということ」
月夜がそう言うと、少女は少し眉を顰めて首を傾げた。
「うーん、よく分からないけど。だって、月夜、人間なんでしょう?」
「貴女は、人間?」
少女は首を振った。
「ううん、物の怪」
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