第85話 一度あったことが二度あった
リビングの硝子戸が開かれる。思考の世界から現実へと意識が戻った。フィルが器用に戸を開けて、また器用にそれを閉めている。彼は月夜の足もとまでやって来ると、そのまま彼女の隣に飛び移った。
姿が見えたときから分かっていたが、フィルは口に白い陶器製の物体を咥えていた。
見たことのある形。
小さな皿だった。
「どこで、これを拾ったの?」
フィルの口から皿を受け取って、月夜は彼に尋ねた。
「どこだと思う?」フィルが尋ねる。
月夜は皿の表面をじっと見つめる。以前拾ったものと大差はなかったが、まったく同じというわけでもなさそうだった。所々に砂か泥か分からない汚れが付着している。表面はざらざらとした手触りで、意図的にそうしたデザインが施されているように思えた。
「また、うちの近く?」
「玄関の前ではなかったな」フィルは淡々と話す。「うちの外壁に沿った通りだ。ぎりぎり敷地の範囲内といえるかもしれない」
皿を目の前のテーブルに置いて、月夜は腕を組んで静止した。
「ほう。随分とわざとらしい格好をするじゃないか」
フィルに言われ、月夜は目だけでそちらを見る。
「何が?」
「探偵にでもなったつもりかな」
「探偵という職業は、現代にもあるのかな」
同じような皿が一枚だけでなく、二枚自宅の周囲に落ちているのが見つかったという現象について、どのような判断をするべきか決めなくてはならなかった。だが、考えられることはもうほとんどない。一度でなく、二度起きたのだから、偶然ではなく、何らかの意思を持った存在が、意図的にそうしたと考えるのが自然だ。あとはその解釈を受け入れるか否かの問題になる。二度だけでは証拠に乏しいと考えることもできなくはない。三度目を待つ必要があるだろうか……。
「小夜に訊いてみることにしよう」月夜は言った。「何か知っているかもしれない」
「俺にもなんとなく分かる。これは、一連の事象と関係がある」
「一連の事象、とは?」
「小夜が、近々お前が物の怪に殺される、と予想している、そのことだ」
今すぐ小夜の住む神社に向かっても良かったが、今日は平日で、学校に行かなくてはならなかったので、月夜は荷物を持って家の外に出た。
「俺は、暫く家の前で見張っていよう」月夜を見上げて、フィルが言った。
「たぶん、今日はもう来ない」
「そう言えるだけの根拠がないさ。どんなときも、可能性はゼロではない」
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