第59話 感覚的理解
「結局のところ、ありとあらゆる行いは、自分のためになるという側面があるんだと思うよ」
月夜がそう言うと、フィルが彼女の傍に近づいてきた。それから足もとで停止し、そのまま顔を上げて月夜を下から見つめる。
「それは、あくまでそういった側面があるというだけだろう? お前が、今、側面という言葉を使ったのは、そういう意味じゃないのか?」
「うん。自己満足だけではないということ」
「それなら、いいじゃないか」
「うん、そうだよ。だから、私は、それでいい、と思っている」
「だが、その帰結として、自分自身を殺すようなことをしては駄目だ」
フィルの言葉の意味を理解しかねて、月夜は首を傾げる。
「どういう意味?」
「自分を殺す行いは、自己満足でもあり、他者のためになることもある。つまり、そういう点において、その行いはほかと何ら変わりはない。けれど、それだけはしてはいけないんだ」
「私が、物の怪に殺されるようなことがあってはいけない、と言いたいの?」
「そうだ」
「どうして?」
「理由はない」フィルは座っていた身体を起こし、月夜の傍を通り過ぎて机の間を歩いていく。「ただ、俺はそう思う。自分で自分を殺すのはどこかおかしい」
「論理的には説明できない?」
「できないな」
「でも、感覚的には理解できる?」
「そう」
月夜は本を一度机の上に伏せて置き、少しだけ目を上に向けて話す。
「それは、私にも、分かるよ」
「そうだろうな。お前は、論理的な思考にだけ則っているわけではないから」
「うん……。それは、誰でもそうだと思うけど」
「でも、感覚的な方をなきものにしようとする奴もいるだろう? しかし、なきものにしようとするということは、逆説的に、本当はあるということを言っているようなものだ」
「その考え方は、論理的だけど」月夜はフィルを見て言った。「でも、その通り」
「少なくとも、俺は月夜が死ぬようなことは望んでいない」フィルは歩きながら話す。「そちらの方向に正解があるとは思えない」
「小夜も、そう考えているかな?」
「ああ、たぶんな」
「でも、それは、フィルと、小夜が、私の仲間内だから、そう思える、というだけでは?」
「もちろんそれもあるだろう。だが……、そう、物の怪は、生きてはいないんだ。そして、お前は生きている。……説明が難しいが、要するにそういうことだ」
理解できたとは言えそうになかったが、分かる気がしたので、月夜は頷いておいた。
「うん」
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