第40話 つう
「私が困っているのが伝わって、フィルが貴女を呼んでくれたみたいです」小夜は月夜に向かって話した。「彼とは長い付き合いですから、それくらい分かるみたいですね。彼は貴女のこともよく理解しているようで、どのような行動をすればよいのか判断したのでしょう」
頭上の枝の上を駆けずり回っているフィルは、特に何のコメントも返さなかった。その通りだということかもしれない。
「何に、困っているの?」
月夜は質問した。その言葉を口にするのが、現在の状況から見て適切だと判断したからだった。
「端的に言えば、物の怪が現れようとしています」小夜は答える。「その障害を排除するために、力を貸してほしいのです」
月夜は小夜を見たまま考える。
物の怪という言葉の持つ守備範囲がどこまでなのか、月夜にはいまいち分からなかった。フィルは自分のことを物の怪と言うが、彼はどこから見ても猫だ。つまり、物の怪というのは、ものの種類ではなく、ものの性質を表すための言葉らしい。そうすると、これから現れようとしている物の怪も、もしかするとフィルのような姿をしているのかもしれない。では、その存在は具体的にどのような性質を持っているのだろうか? 考えても分からない。理由は簡単だ。彼女が今まで出会ったことのある物の怪が、フィルしかいないからだ。
「その物の怪の目的は、ただ一つ」小夜が話を続ける。「貴女を、殺すことです」
小夜の言葉を聞いて、月夜は少し驚いた。
「どうして、私を殺す必要があるの?」
「将来のためです」
「どういう意味での将来?」
「皆にとっての将来です」
「皆?」
「貴女を除いた皆」
いつか、どこかで、そんな内容の本を読んだことがある気がした。社会か、あるいは国語の分野のものだろう。「皆」という言葉の守備範囲はどこまでかという話だ。その本を読んだ当時、月夜は何の結論も得られなかったし、自分でも何の結論も出さなかった。出せなかったと言った方が正しい。
「小夜は、どうしてそれを知っているの?」
月夜が尋ねると、小夜は小さく笑って答えた。
「フィルとの関係が、そうしたもの、あるいは、そうしたものから発せられる情報を呼び寄せてしまうからです」
「情報通、ということ?」
「この話題に関しては」小夜は頷く。「きっと、フィルも知っているはずです」
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