第39話 再会
社の中に出現した小さな炎は、やがて渦を巻きながら入り口から外へ飛び出し、高度を上げて自身の身体を拡大させていった。内側に包み込むように蠢くと、中に人の姿が見えるようになった。フィルは彼女を篝火導師と呼ぶが、そう呼ぶのは今のところフィルしかいない。篝火がどのようなものか月夜は知っているが、あくまで知識として知っているだけで、彼女にとって親しみのあるものではなかった。
炎の中に包まれていた少女が、重力の抵抗をほとんど無視してゆっくりと地上に足をつける。彼女は閉じていた目を開くと、何度か瞬きをし、それから眼前に立つフィルと月夜を交互に見た。
「お久し振りです」少女が口を開く。「呼んで頂いて、ありがとうございます」
少女が手を差し出してきたので、月夜は一歩前に出て彼女の手を取る。少女の掌は想像していたよりも冷たかった。先ほどまで炎に包まれていたのが嘘のようだ。
少女が社の前の石段に腰を下ろしたので、月夜も彼女の隣に座った。背後にある大木に背中を預ける。フィルは木の枝の上をうろちょろしていた。落ち着きのなさは相変わらずだ。
「お会いするのは、いつぶりでしょう?」
少女に問われて、月夜は少し考える。けれど、最後に会ったのがいつかは思い出せなかった。
「分からない」月夜は首を振る。「でも、久し振り」
「ええ、久し振りです」
少女の名前は小夜と言う。篝火導師が本名ではない。そもそも、フィルがどうしてそんな渾名を彼女につけたのか、月夜には理解しがたかった。何かもととなるものがあるのか、それともなんとなく雰囲気でつけたのか、どちらだろうか。
フィルは今は月夜のもとにいるが、もともとは小夜に付き従っていた。それがとある理由があって、今のような形になったのだ。
月夜は、小夜とフィルが、もともと特別な関係だったことを知っている。いや、それは今もそうかもしれない。しかし、特別な関係というのが、どういう意味で特別なのか、また、特別というレッテルを貼ることが、どのような特別な効果を引き起こすのか、あまり理解していなかった。自分で処理したことなのに、その処理の根底にあるものを理解していない。よくあることなので、とりたてて問題視するようなことではないが……。
小夜は月夜よりも小柄だ。
そして、常に学生服を身に着けている。
けれど、最も目を引く外見的特徴はそこではなかった。
破けた袖。
小夜には左腕がなかった。
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