第32話 have to
「君の話をしよう」唐突に真昼が言った。「僕は色々なものから逸脱しているけど……。君はそういうレベルの存在ではない。ルールの適用を受け、それに従うものとして機能している。それは自分でも分かっているよね?」
真昼の話に耳を傾けていたが、急展開すぎたため、月夜は首を傾げることしかできなかった。
「よく、分からない」
「まあいい。今は黙って聞いていてくれれば」
真昼はソファから立ち上がり、また室内をふらふらと歩き回る。大学の教授などで、歩きながらでないと講義ができない者がいるらしいが、それと同じ理由かもしれない。
「君には成すべきことがある」真昼は説明した。「それが具体的にどういうものなのかは、まだ述べられる段階ではないけど、ともかく、君には明確な存在理由があるんだ。この点は、ほかの人間とは少し違う。彼らは発生の前段階にそのための理由を得ているわけではない。彼らにも、生まれてからなら、なるほど、自分はこのために生まれてきたんだなと思う瞬間は、あるかもしれないけどね」
「どうして、そんなことがいえるの?」話の途中だったが、タイミングを見て月夜は真昼に質問した。
「どうして、という問いには答えられないよ」真昼は彼女を見て笑う。「僕がそれを知っているからとしかいえない」
月夜はとりあえず頷いておいた。
「まあ、そんなふうに、君には目標のようなものがある。だからそのために生きなければならない。もちろん、日頃からそんなふうに思っている必要はないけどね。とりあえず、ああ、そんなものなんだなあ、ということが分かっていれば、それでいい」
「それは、私じゃないと、できないこと?」
「君じゃなくてもできる。けれど、君がすることになった。生み出されたのが君だからだ」
「本当に、私にできる?」
「そのために生み出されたんだから、できるはず」
月夜はソファに座ったまま考える。
真昼の話が本当なのか嘘なのか、そして、なぜ今そんなことを自分に告げるのか、分からないことは多々あったが、今はそうした問題は保留しておいて、彼の言う、自分が成すべきこととというのは、どういうものだろうということについて、少し思考を巡らせた。
自分の今までの生活を振り返っても、何かの、ため、にしたことは、ほとんどない。
言い換えれば、すべて自分のためだ。
エゴで生きてきたといっても良い。
自分が成すべきこと……。
できなかったらどうしよう、とは思わなかった。
ただ、できた方が良いな、とは思った。
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