第146話 1億銭の高利貸し

漢の中平4年(西暦187年)、悪役令嬢人妻の董青ちゃんは15歳です。


なぜか董卓パパからは結婚の条件として男の子を求められていますので、ただいま妊活中です。


そんな折、教団の中の異端分子を説得していたら、五斗米道の張魯チョウロさんが紛れてました。

そりゃあ全然違う教団の人が混ざってたら異端ですね。



で、私が妊活したり異端審問せっとくをしたりしている頃、皇帝は新しい政治改革を始めたようです。


今回の改革の内容ですが、まず刺史そうとくそうとくと改名して権限を強化。州の監察役だったのを州の上官として州内の軍と郡の政治に対する指導権を与えます。

地方の長官に独自に戦争の権限も与えるので、いちいち中央から討伐軍を派遣しなくて済むようになり、指揮権も統一されます。


で、なぜこの案が通ったかというと、幽州で張純チョウジュンという人が個人的怨みで蜂起、そして同時に益州でも馬相バソウという人の反乱が発生しているためです。


いや、私、後漢末の反乱って黄巾党と黄巾の残党だけだと思ってたんですが、毎年誰か反乱していますね……貧困対策を進めて反乱に参加するような人は減らすようにしているんですが、中央で貧困対策すると地方で、西の涼州と南の長沙で対策をすると今度は北東の幽州と南西の益州とか……モグラたたきみたいです。



皇帝としてはこれらの反乱の対処のため、この強化された牧に高名な皇族を任命します。まず劉虞リュウグを幽州牧、劉焉リュウエンを益州牧として派遣することになりました。


この二人は物語の三国志でも政治面で有能という評価ですからまずまず妥当でしょう。



 ― ― ― ― ―



で、そんな折。


「で、なぜ銭が必要なんでしょうか?」


洛陽の教団本部に背の低いおじさん、曹操ソウソウさんがやってきて、1億銭の借銭を申し込んできました。



曹操さんは一つうなずくと話し始めました。


「うむ、張純の反乱の原因が太尉軍事大臣張温チョウオンとの個人的怨恨だと言う話はしたかな?」


聞いたような気がします。たしか張温さんは董卓パパも参戦した涼州の反乱討伐の総司令官でした。で、騎兵が足りないのではるか西の涼州の反乱討伐に、東北の幽州から烏桓ウガン族の騎兵を連れてくるように公孫瓚コウソンサンさんに命じたんですよね。


「もともと烏桓は張純と仲が良くてな。張純は烏桓を率いるなら自分だと張温に自己推薦していたんだが、張温が個人的な好みで公孫瓚を選んだので怒ったらしい」


そんなことで反乱して、騎馬民族に万里の長城を開け放たないでほしいんですが、やってしまったものはしょうがありません。



「で、この反乱の責任を取らされて、張温が太尉をクビになった。で後任の検討に入っているんだが、ここにおれの親父が立候補している」


曹操さんの父親といえば曹嵩ソウスウさんですね。


「官位を手に入れるには礼銭が必要なのだが、今回は特に多額の1億銭を献上したいと思っている。これは史侯(弁皇子)の意向でもある」


またなんででしょう?


「皇帝陛下は反乱の続発に心を痛めておられ、中央に皇帝直轄の常備軍を置くおつもりだ」


なるほど、それはよさそうな話ですね。


「しかし、そのための銭が足らん。そこで、売官を口実に、曹家から1億銭を献上したい。1億銭あれば1万の兵士を1年維持できよう」


1億銭というのは半端な金額ではありません。一般的な平民の1家族が1年暮らすのに1万銭が必要と言われています。つまり1万家族が1年暮らす生活費になります。


穀物でいうと60万石1200万リットル、絹で言うと10万匹、牛で言うと5万頭です。


この漢朝の国内総生産GDPを私は1000億銭と見積もっていますので、1億銭だと国家すべての富の1000分の1に当たります。





で、うちの教団の今年の総売り上げが20億銭ぐらいの予定ですね。


……はい。そうです。

いまちょーーど、うちの銭行ぎんこうに、銅銭の余裕が1億銭ぐらいあるんですよねぇ……


じろっ。



曹操さんの後ろに控えている、若白髪の賈詡カクさんを一にらみすると、賈詡さんはにっこり笑いました。


にっこりじゃないですよもう。



賈詡さんから狙いは聞いています。皇帝はこの中央常備軍の構想にかなり入れ込んでいます。弁皇子の手配で1億銭の献上を成功させ、皇太子となるための功績とするだけでなく、この中央常備軍の役職に曹操さんと劉備リュウビさんをつけることで実質的な弁皇子軍とするつもりです。


で、その銭を河伯教団から貸し出すことで常備軍の銭主として大きく恩を売り、教団の安全を確保します。


悪くはない話なんですが……



私は曹操さんに話しかけました。


「で、担保を頂けるんでしたっけ?」

「もちろんだ、我が曹家で保有している珠玉の家宝をだな」


曹操さんはすでに馬車で家宝を持ち込んでいました。

翡翠や黄金の彫刻、珊瑚、真珠に虎の毛皮、金銀で見事な細工が施された家具などなど。

大宦官の曹騰さまが数十年の宦官生活でため込んだ全財産だそうです。


呂伯奢リョハクシャに評価してもらったが、2億銭にはなる」

「……お金持ちなんですねぇ?」


こんなすごい財宝の数々を見たことが無いのでさすがに私もびっくりしています。公明くんや周りの信者さんたちも声も出ません。


「しかしな、あまりにも高額で、今の洛陽でこれを買えるやつがおらん。呂伯奢からは、販売を急ぐと価値が暴落し、売値は1億銭を割るだろうと言われた」


それはそうでしょうね。


「というわけで、これらの財宝を売りさばくための2-3か月かな?1億銭を貸していただきたい」

「利息は貰いますよ」

「はははは、全く構わんぞ!」


曹操さんが大笑いして、商談が成立しました。





え、利息を2000万銭も取っていいんですか……それが相場?

金持ちすごいですね……。

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