ご命令とあらば、名探偵。

@ra_u

大喧嘩、その後

シエスタと喧嘩した。いつもの些細な喧嘩なら両者とも「相手が悪い」の一点張りで引かず、知らぬ間に仲直りしているのだが、今回ばかりは訳が違う。そう、俺が間違いなく悪いのだ。どちらが悪いか判断する余地もないほどに。


時は今朝に遡る。今朝の俺はかなり機嫌が悪かった。理由なんてないが、とにかく機嫌が悪かったのだ。俺のいつものモーニングルーティーンにはもちろんあの名探偵を起こすことも入っている。普段なら、容姿端麗なあの名探偵の可愛らしい寝起き姿が見れるのだ。楽しみじゃない訳がない。しかし、今日はそれをも面倒くさく思ってしまうほどだった。

「シエスタ、朝だぞ」

「…じょしゅ?…あとごふんねかせて」

いつもなら(かわいい…)となり5分でも10分でも1時間でも寝かせてあげるところだが、何度も言うが今日は機嫌が悪い。俺はそんな名探偵に見向きもせず、布団を引っ剥がして無理やり体を起こし、「朝飯はいらない、一人で食べてくれ」とだけ言い残し、早々とシエスタの部屋を出た。普段のシエスタならここらで俺の機嫌が悪いことを察してくれるだろうが、なにせあの朝が弱いシエスタだ。気づく訳がない。俺は(シエスタなら察してほっといてくれるだろう)などという甘い考えを持って自分の部屋に入った。これが間違いだった、いや、これ"も"間違いだったとでも言うべきか。

部屋に入ったのはいいものの、することが無い。相変わらず機嫌は治まらないなどと考えながら俺は大きな欠伸をした。そういや昨日は漫画を読んだら止まらなくなってあまり眠っていなかったな、などと思い、俺はベッドに入り寝る準備をした。寝付く寸前、眠気が覚めた元気なシエスタが部屋に入ってくる。

「助手?もう朝だよ?何寝ようとしてるの?」

俺は無言で寝ようとする。

「しかも今日の掃除当番は助手だよ?この偉大な名探偵を汚い部屋に居させないでほしいなあ」

「君は私の助手兼お世話係なんだからさ」

シエスタはいつもの冗談を言う。

普段なら申し訳ないな、名探偵とでも返しすぐに掃除を始めるが、機嫌の悪い俺はとうとう限界を迎えてしまった。

「うるせえな!!名探偵だからって偉そうにするなよ!!助手とか言ってただこきをつかってるだけだろ!!!お前とはもうパートナーを解消させてもらう!!」

そう言って俺は家から飛び出した。

最後に俺の目に映ったのはびっくりしながらも泣き出しそうなシエスタの顔だった。


そして現在に至る。なんだこれ、俺悪すぎだろ。喧嘩というか単に俺がキレただけじゃねえか。しかもただの自分の機嫌の悪さで。思い返すだけで嫌になる。もちろん過去の自分に。これからどうしようか。そう思いとりあえず公園のベンチに座った。もう周りはとっくに暗くなっている。シエスタは何しているだろうか。いや、ダメだ。俺が勝手に怒っといて今更もう一度パートナーを組んでくれるはずがない。もうシエスタのことは考えないでおこう。今日はどこかの安いホテルにでも泊まるか、などと思い立ち上がろうとする。そしたら遠くから声が聞こえた。

「助手ー!どこにいるのー!!」

シエスタの声だ。間違いない。俺は直ぐに走ってシエスタの元へ行く。そしたらシエスタはパンパンに腫れ上がったその目から涙を零しながら俺に抱きついてくる。どれだけ良いパートナーを持ったんだ、俺は。

「よがっだ、じょしゅ」

シエスタはカスカスの声で俺にそう言う。恐らくずっと大声で探し回っていたのだろう。

俺は「心配させてすまない。」とだけ言い、とりあえず2人で家に帰った。



「ほんとうにじょしゅにきらわれたかとおもった、メッセージもかえしてくれないし、ほんとうにパートナーかいしょうされたとおもって、」

スマホを手に取ると、何十通ものメッセージがシエスタから送られていた。

「本当に悪かった、パートナー解消なんか嘘だし、そもそも俺はお前がいなきゃ生きていけない」

家に帰り、シエスタが沢山泣いたあと、俺は本気で何回も謝罪をした。シエスタは本当に怒っているようだった。口を聞いてくれない。そりゃそうだ。これはあまりにも俺が悪すぎる。しばらくしたあと、ようやくシエスタが口を開いた。

「さっきの言葉、本当?」

「さっきの言葉って?」

「だから…乙女に言わせるかな…」

もうシエスタに謝る一心だったため、あまり覚えていない。

「だからその…お前がいなきゃ生きていけないって…」

シエスタは頬を赤らませながら小声で言う。何だこの生物、可愛すぎだろ、と思いながら自分の発言に驚く。俺はそんなことを言ったのか。

「いやいやいや!!それはほら…なんというかその…」

「じゃあ嘘なの…?」

シエスタは泣きそうになりながら言う。

「嘘じゃないぞ、シエスタ」

どうやら俺は名探偵には勝てないらしい。

「なら付き合おう助手」

俺は訳が分からず静止する。

「………本当か?」

「そしたらそのあと沢山デートして、結婚して、その…君が望むなら……えっちなこととかも…少しだけ……」

またも頬を赤らませながらシエスタは言う。慣れないことを言うからだ。言わんこっちゃない。しかし動揺している暇もなく、俺は頭を本気でフル回転させ、冷静を装った。すると、シエスタは決めゼリフのように言う。




「君、私の彼氏になってよ。」

「ご命令とあらば、名探偵。」

「ふふっ」

「バカだな、お前は」

「やれ、理不尽だね」

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