22・ケンカと仲直り
昨晩は木崎と約束をしていた。向こうから、バルナバスや王女たちとのことについて詳細を話せと持ちかけてきた。それなのにキャンセルされたのだ。
夕方にヨナスさんが尋ねてきて告げられた。その際、ムスタファ様が心配しているからと、あの後は王女たちに意地悪されなかったかと確認もされた。
王女たちに嫌みは言われたけど、意地悪はされなかった。
そう説明するとヨナスさんは
「良かった。ムスタファ様もご安心するでしょう。本当は直接あなたの顔を見て尋ねたいようだけどね」
となんだか意味ありげな笑みを浮かべたのだった。
「どうしてキャンセルなのですか?」
ヨナスさんの笑みは私にそう質問することを促しているように見えた。
「急な会合が入ったと伝えるように言われてるが、単なる格好つけたがりだよ」とヨナスさん。「さすがに参りきっているのだけど、君にそんな姿を見せたくないらしい」
どういうことだ、何があったのだと問う私にヨナスさんは、
「明日、励ましてあげて。従者からの切なる願いだ」
なんて言って、何も教えてくれなかった。
何がなにやら、全く分からない。おかげで気になりすぎて眠れなかった……なんてことはない。寝不足の上に、王女たちに激しい有酸素運動をさせられたから、疲労困憊でぐっすり眠れた。今日の私は絶好調だ。木崎のアホを問い詰めてやる。
意気軒昂にムスタファの私室を訪れる。と、扉前でちょうど退出してきたヨナスさんに会った。
「そんな心配そうな顔をしないで」と囁くヨナスさん。
「そんな顔はしてません」
「意地っ張りだね、どちらも」
彼は菩薩のような笑みを浮かべて扉を開き、 中に向かって
「髪係が来ましたよ」
と声をかけて去っていった。
意地っ張りなのは昔からだ、しょうがない。
木崎なんかに心配されているのはむず痒い。
助けの手を差し伸べてくれるのも、ありがたいけどやっぱりむず痒い。
何かを受けるばかりは私のほうが負けているみたいで嫌だし、あいつをナチュラルに心配してしまうのも、やっぱりむず痒い。
昨日はうっかりすがりそうになってしまったことも冷静になってみると、いたたまれない。
ヨナスさんに言われたので顔面に緊張感を持たせて、失礼しますと部屋に入る。ムスタファはいつも通りにお気に入りの場所に座り、私を見て
「昨日は悪かったな」と言った。
まるっきり普通の態度だけど、顔色が普段よりも白いように見える。
「急な会合が入ってな」
「ふうん。誰と?」
ヨナスさんが出しておいてくれた手入れ道具一色の乗ったワゴンをムスタファの背後に運ぶ。
「お? 嫉妬か」
木崎はおちゃらけた口調だ。腹が立つ。あくまでその嘘を通すのか。
「キャンセルされたんだもん、教えてくれていいよね」
「内緒」
なんだそれは。
ムカムカしながら心の中では、手つきだけは冷静にと唱えつつ、美しい銀髪にオイルを馴染ませる。
「あのさ。それ、嘘でしょ。ムスタファ殿下には何の予定もなかったって知ってるから」
「へえ。フェリクス並みの情報収集力か? 別にお前になんでもかんでも話す必要はねえだろ」
苛立ちを含んだ声。顔は見えない。
「確かにそうだし、私だって木崎のことを何でもかんでも知りたいなんて思ってないけど」
ああ、私までイライラしてきた。ひとのことには首を突っ込んでいるくせに、自分は固くガードか。ヨナスさんの言うとおりに参っているというのなら、ちょっとくらい私に弱音を吐いてくれたっていいじゃないか。
「なら、詮索するなよ。お前はシュヴァルツ攻略を考えてりゃいいだろ」
それはそれだよ、バカ木崎。
「あのさ、一応、心配してるんだけど。公爵夫人の話に、昨日はヴォイトに魔力封印のことを尋ねたんだよね? やっぱり思うところがあるんじゃないの? ヨナスさんが意味深なことを言ってた」
「ヨナス?」ムスタファの声は明らかに不機嫌なものだった。「あいつが何を言ったか知らないが、最近勘違いが甚だしいのはお前も知ってるだろ?取り合うな」
「……分かった」
どうしても、私には話さないらしい。
そうか。昔は犬猿の仲だったけど、今はそれなりに信頼しあえる間柄と思っていたのは、私だけか。格好つけだがプライドの高さだかなんだか分からないけど、私に本心は見せないってか。
ムカムカが最大限になっている。
あんまり頭にきたのでそれ以降は話しかけなかった。木崎から声をかけてくることもなかった。
仕事の手を抜くことは嫌いだから、普段通りに丁寧にやって。そのまま長い髪をハーフアップにする。三つ編みにして……
「お前、何をしている?」
「見習いの仕事ですので詮索は不要です」
「……」
自分の頭からピンを抜いて、渦巻き状にした三つ編みを固定する。どうだ、薔薇だ。可愛らしさ満点だ、皆に笑われるがいい。
終わるとそれだけを告げ、黙って手早く片付ける。
「では失礼します」
ムスタファの顔は見ずに頭を下げ、さっさと部屋を出た。
ああ、腹が立つ。
木崎に腹が立っているし、引き留められなかったことにショックを受けている自分にも腹が立っている。
なんなんだ、この精神の不安定さは。思春期か。
あいつは私に相談する気はゼロ。
それなら勝手にすればいい。悩みすぎてハゲてしまえ。
足早に階段を下りていると、上ってくるルーチェに出くわした。
「ああ、良かった! 運が向いている!」
彼女は私の顔を見るなり嬉しそうに声を上げると、
「来て! 急ぐのよ!」
と一言、スカートをつまんで今度は階段を下り始めた。彼女らしくない早足だ。
そうして連れていかれたのは近衛隊専用の広場だった。城での勤務を終えた隊員たちが散り散りに去っていくところで、その中にはカールハインツがいる。
「よし。行くわよ」とルーチェ。
とたんに心臓がバクバクいいはじめた。
「怯んでいる場合じゃないでしょう!」
と、彼女に腕を取られて引っ張られる。
実は彼に近づく作戦をルーチェが考えてくれたのだ。
「失礼します、シュヴァルツ隊長」とルーチェ。「少しお時間をいただけますか」
黒い瞳の鋭い目が彼女と私を見る。
「他にどなたに相談してよいか、分からぬものですから」
ルーチェは堂々とそう言ってから私を見て、ね?と可愛く同意を促した。
私のために、こんなにがんばってくれているのだ。私も頑張らねば!
そう考え、ぐっと気を引き締める。
「そうなのです、やはりシュヴァルツ隊長の意見が一番確実ですから」
「おやおや、何事だろう」ニヤニヤ顔のオイゲンさんが近寄って来た。「言ってごらん」
副官の言葉にカールハインツがうなずく。
良かった。
「カルラ殿下のお誕生日が近いと伺いました」
そう切り出すと、黒騎士の顔がわずかに緩んだ。
姫様には良くしてもらっているから、贈り物をしたい。今までのように手作りで、彼女が喜ぶ品がいいのだが何も思い付かない。そこで姫様憧れの人、本人の意見を聞かせてほしい。
そう話すと、
「なるほどね」オイゲンさんが腕を組む。「いっそのことカールにリボンをつけて贈ったらどうだろうか」
カールハインツにリボンをつけたプレゼント……。想像するだけで鼻血が出そうだ。
「って、それは君が欲しいかな?」再びニヤニヤ顔のオイゲンさんが、私の目をのぞきこむ。
「滅相もないことです!」
オイゲンさんはプハッと吹き出して、冗談だよと笑う。
「どうでしょう。何か良案はないでしょうか」
頼もしい友が再び仏頂面になった騎士に尋ねてくれる。
「私は姫様に女らしく育ってほしいのだ。ままごとセットを勧めたい。だが姫様が喜ぶ贈り物を、という心意気は良い」
「本当に面倒だな、お前は」と副官。「私はうちの隊の記章を勧めるね」
「それは駄目だろう。偽造は罪になるぞ」カールハインツはにべもない。
「偽造じゃない」オイゲンさんは左腕にあるそれを指差した。部隊名を表す数字の三と二本の剣とが刺繍されている。「明らかに違うように大きくして、三の代わりにカールの『K』を入れる」
「いいですね!」
だろ?としたり顔のオイゲンさん。「カールの許可も得たし、問題なし。姫様も喜ぶこと、間違いなしだ」
「俺はまだ賛否を言ってない」
「まあまあ」
オイゲンさんは上司をいなして話を進める。どうやら彼は、幼い姫が憧れの人の服を着て騎士ごっこをしていることを知っているらしい。
「失礼します」と聞き慣れた声がした。綾瀬、ではない、レオンだ。
「ひとつ提案があるのです」
真面目な顔をして、邪魔をしに来たのだろうか。そう疑ったけどレオンは、騎士がみな身に付けているというお守りを挙げた。
「それも良いな 。セットで贈れば、近衛の気分により浸れる」とオイゲンさん。
「今度、授受してくれる教会に僕が案内するよ」レオンが私に笑顔を向ける。
それは困る。実はルーチェと私の目的はその教会で、カールハインツに案内を頼みたかったのだ。何より目的がなんであれ綾瀬との外出はよくない。気を持たせてしまう。
「ごめんなさい。お守りは欲しいけど、あなたと二人での外出はできません」
「それは悲しい」レオンは眉を下げ、それからカールハインツに顔を向けた。「隊長も一緒に来てもらえませんか」
え?
聞き間違いだろうか?
「二人きりだと彼女に警戒されてしまう。隊長がいれば、了承してもらえると思うのです。お願いです、可愛い部下を助けて下さい」
「……捨て身の作戦だな」オイゲンさんは気の毒そうな声音だ。
「ルーチェと、四人で行きましょう。それならみんな、安心でしょう?」
レオンが言葉を重ねる。
一体何を考えているのだろう。『隊長を肉食女から守る会』会長としても、私の恋には反対のはずなのに。そうまでして私と出掛けたいのだろうか。
「彼女の外出には誰かしら近衛が付いたほうが、殿下も安心すると思いますし」
「確かにな」と、オイゲンさんは納得している。
「……そうだな。殿下は大分心配性のようだし。仕方ない。警護として同行しよう」
「決まりだ」
綾瀬のレオンは嬉しそうに私を見た。
◇◇
外出の日取りまであっさり決まり、ルーチェとふたりで来た道を戻り、建物の中に入る。もう近衛たちの姿はない。
「上手くいきすぎていて、びっくりです。ルーチェさんの作戦のおかげですね」
やたらと『殿下』という言葉が出てきたことには不満だけど。
「そうね。あと、レオンさん。良いアシストをしてくれたもの。敵に塩を送るようなことなのにね」
そうですねと答える。
別れ際、綾瀬はこそっと私の耳に、
「貸しです。あとでご褒美をもらいますからね」
と囁いた。むしろ下心ありだった、ということにほっとする。
「……ねえ、マリエット。ムスタファ殿下と何があったの? あんな顔で歩いていたら、またあることないことを噂されるわ」
頼りになる友人は、いつもの噂好きな興味津々風情ではない。周りの人気も確認していた。
『別に何も』と答えようかと思ったけれど、彼女には話しを聞いてもらいたいような気がする。だけど、どのように説明すればいいのだか。悩み、結局
「殿下は私には弱音を吐きたくないみたいです」
とだけ伝えた。
「なるほど。あなたはムスタファ様に参っている姿を正直に晒してほしいのね」とルーチェ。
……改めて言われると、なんだかすごい恥ずかしい。
「最近の殿下の頑張り様は凄まじいものね。きっとみっともない姿を見せたくないのよ」
「それは分かっているのですが」
「分かっているのに望むの? マリエットは案外欲張りね」
ルーチェは楽しそうににんまりした。
◇◇
明るい日差しの中、すっかり通いなれた廊下を進む。ムスタファの私室の扉が開いている。昨日ケンカをして以来、彼に会う。
複雑な気分だ。私が折れるしかないのかな。前世だったら絶対にそんなことはしなかった。
あれこれ考えつつ、声をかけて入ろうとしたら、中にいたヨナスさんと目があった。にこりとされる。
「髪係りが来ました。私は他の仕事を済ませてきます」
彼はそう言って、さっと部屋を出ていく。
木崎のムスタファはいつもの場所にいつものように座っている。こちらは見ない。
「オハヨウゴザイマス」
「ん」と木崎。
そのそばに寄り、
「昨日はムキになってごめん」
「ん」
ほとんど口は動いていない。これが拗ねか。とりつく島もないじゃないか。昨夜ヨナスさんに、ムスタファ様が拗ねていて困っているから、なんとかしてくれと言われたのだ。
可愛くないこともないと思いながら、手入れセットのワゴンを取りに行く。
「昨日の変なのはやめろよ」と背後でムスタファが喋った。口調は普通だ。振り返っても、向こうを向いて座っているから顔は見えない。
「髪型のこと?」
「そう。カルラには好評だったが」
「なら、いいじゃない」
「次にやったら、カールハインツを左遷」
「卑怯者!」
いつも通りだ。木崎に対するもやもやが完全に消えた訳ではないけれど、ほっとして手入れを始める。
「ヒュッポネンに相談して、気づいたんだがな」
唐突すぎるムスタファの言葉に、何が?と問い返しそうになって思い出した。魔力封印の可能性のことだろう。
「攻撃系のような魔法で、ハイレベルなものは公式に伝わっていない可能性が高い」
封印の話だったはずだけど、と頭を整理する。
魔法府には国内のあらゆる魔法書が集められていることになっている。だが攻撃に関するものだけレベルが低く思われる。恐らくは王族に魔法で敵対する者が現れないようにするためだろう。
ムスタファはそう説明したあとに、
「となると、それらに関した魔法書が存在するなら王族が隠し持っていると考えるのが妥当だろ?」
「……だね」
何だか嫌な予感がしてきた。
「ヒュッポネンが上級魔術師団顧問の古老に確認したが、彼の知る限り魔力を封印する魔法について書かれた書物はない。これも存在するなら、王族の元にとなるだろう」
あくまで仮定の話だがな、と顔の見えないムスタファは話し続ける。
「ベルジュロン公爵夫人によれば、母をここに連れてきたのは父で、結婚に他者の意向は介在していない。ヒュッポネンと夫人の話、ゲーム設定を擦り合わせ推察すると、俺の母親が魔王だったと知っているのは父。俺の魔力を封じたのも父だ。
俺が人間でないと知っていて、公式では未確認の魔法を知り、使えるだけの魔力の持ち主。この条件が揃う奴はそうそういないと思う。なんなら母を殺したのも父かもしれない」
疑問点は多々残るが、それが一番あり得るだろう?
木崎のムスタファは淡々と言った。
思わぬ話になんて答えればいいのかを迷う。
「ろくでもない父親だと思っているし、あいつに息子として扱われたこともねえけど、さすがにへこむ。何で俺は生かされてるんだ、とか考えちまって」
それがキャンセルの理由か。相当に落ち込んでいたのだろう。私はなんて言うのがベストだろう。
「……仮定に仮定を重ねた、推論とも呼べないレベルの話だよ。あくまで可能性のひとつに過ぎない。木崎らしくないね」
「分かってる」
違うな、と思う。私がかけるべき言葉はこれじゃない。
「一緒に真実をみつけよう。少しずつだけど進展してる。次の手がかりを探そう。で、気が向いたら私に愚痴りなよ。思いっきり喝を入れてあげる」
「宮本じゃな」
「不満は受け付けない」
「俺好みのあざと可愛い女を連れて来てくれ」
「自分で見つけろ! ていうか、ご令嬢たちにそんなタイプはわんさかいるんじゃないの?」
「いねえよ。あざとさはあっても可愛さがない」
「妥協すれば?」
「しょうがねえ。お前で妥協してやる」
思わぬ返答が来た。
「……そりゃどうも」
てっきり今日も拒まれて終わりだと思っていたので、びっくりした。あまりの驚きで、ちょっとばかり胸がドキドキしている。
だけど油断は禁物だ。木崎は急に恋愛上級者ぶるから、『喝の代わりにキス』とかからかってくるかもしれない。
黙って髪をとかしながら様子を見る。
……おかしいな。何も言ってこない。
調子が狂うじゃないか。この話題はもう終わり、ということなのかな。あまり触れたくないのかもしれない。別の話題に移るとしよう。
「ところでさ」と話しかける。「実際のところ、魔法の訓練って何をしているの?」
魔力ゼロのムスタファにできる訓練なんてものがあるのか、気になっていたのだ。
「イメトレ」とムスタファ。
弱い魔力を強化する訓練や、魔力の使いこなしが下手な人向けの訓練というものがあって、彼はそれをひたすらやっているそうだ。魔力がないので、イメージをすることをメインとして。
ものすごく地味で根気が必要に思える。派手な剣術と違うそんな訓練を続けているのだから、本当の本当に努力家なのだろう。素直に尊敬する。
論理的には魔力を体内で循環させてから一点に集めて、とムスタファが説明する。
「ま、スポーツだろうが魔法だろうが一緒だ。成功している姿をイメージしてだな……」突如ぐるりと振り返るムスタファ。「聞いてるか?」
「聞いてる!急に動くなって、何回言えば王子様は覚えるのかな?」
全く。手入れ係の苦労が分からないヤツだな。また髪を可愛くしてみようか。昨日のとは違うもので私に出来そうなのは──。
昔ハロウィンの仮装で友達が地毛で猫耳を作っていたけど、あれはどうやるのだろう。
「お前、また何か企んでいるだろう」
「企んではいるけれど、技術が追い付かない。練習台にしていい? いいよね」
「よくねえよ」
「ケチ」
仕方ないので綺麗にといて、しまいにした。悔しい。可愛く結いたかった。
手入れ用具を片付けながら、
「カールハインツとの外出が決まったよ」と報告する。
「経緯を詳しく」
「何で」
「綾瀬も一緒の理由」
「どうして知っているの!」
もう王子の元にまで噂が届いているのか。早すぎる。
「シュヴァルツが報告に来た」
木崎はそう言って、座れと顎で隣を示した。王子なのに態度が悪い。けれどその話は気になるので、おとなしく座った。
「あの生真面目は一通り説明したあと、行動計画書を提出すると言い出した」
「なんで木崎にそんなものを」
と言いつつも。考えるまでもない。先日の夜、ばったり会ってしまったことが原因に違いない。あの時のムスタファは、過度な心配性に見えただろう。
「好感度が遠退いている気しかしない」
「腕の見せ所だな」
ムスタファが嫌味な顔で笑っている。いつもの顔で、ほっとする。
「優しい俺は、計画書なんていらないと言ってやったからな。しっかりやれよ」
「当然」
「だが綾瀬は何なんだ」
仕方ないので、何故か彼が好アシストをしたために外出が決まったのだと説明をする。ご褒美をねだられているのは内緒だ。
「ていうことは、シュヴァルツが同行を引き受けたのは俺のおかげじゃねえか」
話を聞き終わった木崎はそう言って。
「これは礼をしてもらわねえとな」
「分かった。ヘアアレンジをがんばるね」
「俺が決めるものだろうが」
「だって木崎じゃ、ろくなことを言わないでしょ」
「お互い様だろ。何がヘアアレンジだ。自分はひっつめ団子のくせに」ムスタファの視線が私の頭に向く。「──お前、髪飾りを持ってないのか」
「逆に持っていると思うの?」
「ヒュッポネンが話していた、危険を知らせる宝石。あれは髪飾りに加工するか」
「それじゃ光っても自分じゃ見えないわよ」
「お前が見る必要はないだろ」
「あるよ。木崎だって討伐の可能性があるのだから。だからヨナスさんが三つにと頼んだのでしょう?」
ムスタファは瞬いた。
「なに、お前。そうなったら俺を助けてくれるのか?」
「知らんぷりするほど、人でなしではないよ」
へえ、と呟いたムスタファの顔が一瞬だけくしゃりとした。
いつも飄々としている木崎でも不安なのだ。
垣間見せられた本心に、見てはいけないものを見てしまった気になり、そっぽを向く。
「私、宝石の代金も加工の代金も出せないからね」
「出世払いな」
いつもの口調でいつものセリフが返ってきた。
それから偶然手に入れたというファディーラ様の似顔絵を見せてくれた。彼女は息子によく似た美しい人で、柔らかな笑みを称えていた。
私はなんだか切なく、だけどどこか安堵したのだった。
一方で彼はその似顔絵を描いたのがフーラウムその人だというので、少しだけ惑っているようだった。
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