第18話 : 水琴の努力
「鬼城院、ちょっと話があるんだけど、いいかしら」
俺のことを呼び捨てなのはともかく、水琴にしては恐ろしく丁寧な言葉遣いで声を掛けられた。普段なら「鬼城院、話がある」だけなのにどういう風の吹き回しだ。
「さっき、間地代理が話していた件なんだけど」
間地代理のように俺の右側に立ち、腰を折ってくる。
が、見える景色はまるで違う。
水琴が着ているブラウスはきちっとしたワイシャツ様のもので、首元は第一ボタンが開いている。あまり開口部が大きくないのでその中はほぼ見えない。
ほとんど見栄で付けているとしか思えない白いブラジャーが僅かに覗く程度。
こいつは間違いなく
ツルペタが悪いとは言わない。それはそれでもちろん魅力があると思っている。
だが、俺だけについて言えば巨乳が大好きだ。
デカければデカいほど良い──訳ではないが、間地代理くらいなら大歓迎だ。
水琴くらいとなると──胸に関して言えばゴメン。
だから下半身は何の変化もなし。賢者でお仕事モード全開だ。
とは言え、水琴は普段よりも遙かに距離が近い。そこはちゃんと意識している。
理由はわからないが、わざと見せるようにしているのだろう。
「ここの部分がね、もう少し何とかなれば・・・・」
赤ペンを持って、チラチラとこちらを見ながら話を進めている。
その目線にはどこか必死さが感じられる。
コイツは仕事に関しては非常に優秀だ。いつも余裕たっぷりに仕事をこなしているように見える。
開発二課にいて接点があった時、
それが今は、どこかオドオドしているような、言葉がスムースに出てこない感じで、心ここにあらずという雰囲気がプンプンしている。
お前そう言うキャラじゃないだろ。
そう思いながら聞いていたら、体を入れ込むようにして、俺に密着してくる。
間地代理が相手なら完全に事故案件で、恐らく巨大な塊の先端まで見えていただろう。そうなればトイレに駆け込み、処理をしないと次の仕事が出来なかったはずだ。
が、水琴なら全然そんな感じはない。
何せお姫様抱っこをしてベッドへ寝かせることが何度もある仲だ。
目のやり場に困らないし、上半身が密着した程度では何も起こらない。
とは言え、何故こんなことをするんだ。
「水琴、お前、ちょっとくっつきすぎ」
「へ?」
コイツはさっきの俺のように心ここにあらずで仕事をしていたのか、素頓狂な声を出して、完全に固まってしまった。目線も定まっていない。
お~い、水琴、帰ってこい。
「水琴さん、その件は私と」
間地代理が割って声を掛けても、水琴はポカンとしている。
「み、こ、と、さん」
「あ、はい」
「お仕事中よ。しっかりしましょ」
「すみません」
水琴が俺の向かいにある間地代理の席に移って、小声でやり取りをしている。
耳を立てて聞いていても、さっきの案件とは違う話のようだ。
新参者の俺にはわからなそうなことだったので、ここは自分の仕事に集中しよう。
カチャカチャとキーボードを叩いていたら、スマホが震えた。
机上で見れば、隣に座る智鶴からのメッセージが。口で言えばいいものを、と思ってそれを見れば
『今日、お邪魔します』
それだけの非常にシンプルなメッセージが残されていた。
行為としては理解できるが、それなら直接伝えれば済むのに。
智鶴の顔をチラリと見れば、鬼の形相で俺を見ていた。
間地代理とのことが見られたのだろうか。浮気心はこれっぽっちもないんだけど。
『了解』
さて、帰宅後はどういうことになるのやら。言い訳を考えておかないとマズイな。
そして、どういう台詞ならわかってもらえるかばかりを考えていたら定時になっていた。
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