第13話 : 三十路オンナの初恋(水琴視点)
あ~あ、昨日はまた酔っ払っちゃった。
間地代理が歓迎会本番ではアルコールNGだけど、そこから先は関係ないからと言ってたから鬼城院の奴に甘えてしまった。
どうして自分はお酒への意志が弱いのだろう。
他のもの、例えばブランド品やら高級な食事なんかには全然執着心がないし、彼氏だってそれ程欲しいと思ったことはない。
鬼城院と一緒に飲むのだって、別にアイツじゃなくていい・・・・はずだ。
現代の日本でもオンナが一人で居酒屋や小料理屋に行くのは結構ハードルが高い。
そういうところに一人でいるのは大抵が男性だし、まして私くらいの年齢の女性となると男日照りなのがバレバレだ。
だから盾として男が欲しいだけの・・・・はずだ。
最初はそうだった。
鬼城院でなくても、私が惚れる男なんてたぶんこの世にいない。そう思っていた。
私は小さい頃から誰よりも負けん気が強くて、何でもいつも一番でなければ気が済まなかった。
だから勉強を頑張って地域で一番の進学校に中学から進んだ。そこは女子校で、高校まで進み、大学は理系のある国立の女子大を選んだ。
もちろん、東大という選択肢もあったし、合格もできたと思う。
どこであっても男と一緒に学ぶことには抵抗があったのだ。
自分で言うのも気が引けるけど容姿にはかなり恵まれていたから、中学2年生くらいから近所の学校に通うアホな男共が校門で待ち伏せしてナンパしてきたり、たまに買い物に行けば歩いているだけで声を掛けられたりと同世代の男にはいろいろ嫌な思い出が沢山あるのだ。
そういう訳で女子だけの学校に行ったし、男のいる会社に就職してからは理想の男が現れるまでの盾が欲しかっただけの・・・・はずだ。
人畜無害なオトコが一緒にいれば、ゴミ除けになる。そして、私の全てを受け入れてくる理想の人と出会えればそこで関係は解消。恋愛感情はそこにない。
鬼城院はそう言う点では適任だった。
私にとって理想の男とは学歴と容姿に優れているのはもちろん、仕事も出来て、優しくて、家事は全て分担できて、お金があって、オシャレにも気を遣って、私を経済的に一切頼らなくて、私の行動に一切口を挟まなくて、もちろんエッチも上手で、そして告白もドラマチックな演出付きで──そんな男がいる訳ないだろうと思っているけど、ひょっとして現実にいるかも知れないという非現実的な期待があって──結局、誰とも交際したことなんてない。オトナの厨二病極まれりで、もちろん処女だ。
鬼城院は私の条件にほとんど《当てはまらない》。エッチのことは全然知らないけどね。
強いて言えば多少優しいことくらいだろうか。
だから、飲み友達であっても惚れることなぞないと思っていた。
酒癖の悪さは自覚している。だから性別問わず友達が少ないこともわかっている。
それでも誰かに愚痴を聞いて欲しい時はある。
そんな時は大抵私の心が弱っている。他の人に弱みを見せるのは嫌だけど、鬼城院なら何故かそれを見られても許せる自分がいる。
アイツは私に寄り添ってくれるし、家まで送り届けるほどの後始末までしてくれる。それでいてイヤらしい要求はまったくしてこない。そんな安心感がある。
そんな理由で私から誘う唯一のオトコになっている。
理想の男がいるくらいだから、男が全く嫌いな訳じゃない。だから・・・・鬼城院・・・・
今日の私は、いつもならはす向かいに座っている鬼城院がいないだけで、何だか不安めいた気持ちになる。
この気持ち、何だろう。
初恋?もう三十路だというのに?
盾という防具がないから?いや、彼が前の所属の時はここにいた訳じゃない。その時は何も感じなかったのに。なんで今更?
朝から疑問符ばかりが沸いて仕事が手に付かない。
晴宗さんが直近のプレゼン資料をまとめてくれたけど、全然集中できない。
間地代理と鬼城院が一緒って・・・・ああ、私が行くって強引に言えば良かった。
もう!
「水琴さん・・・・あの~、水琴さん」
「んっ、ああ、あ・・何だっけ」
晴宗さんがさっきの資料について訊いてくるけど、もう上の空状態だ。
こんなことで負けん気がどうのこうのなんて自分でも呆れる。
「水琴さん、具合悪いんですか?」
「いや、大丈夫、全然大丈夫」
もういいや、5時になったら帰ろう。
とにかくそれまでは仕事に集中だ。
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