第299話

「今の所諜報部隊からは、特に動きはないという報告がきているわ」

「影の者たちや我が家の回復魔法使いたちからも、教会内での魔力の不自然な動きはないと報告がきている。現状、まだ奴らの動きは一つもないな」


 イチゴやベリー類を楽しみながら、カノッサ公爵夫妻が情報を共有してくれる。ローラ嬢や教皇がいる教会に潜入している、影の者たちや諜報部隊の者たちからの報告。まだ暗き闇側の動きはないそうだが、こちらに悟らせない方法が存在する可能性もある。今も虎視眈々と動く準備をしているか、既に動いているかもしれない。


「ローラ嬢は、聖女としての役目を全う出来ているんですか?」

「暗き闇から授けられた力を使っているのか分からないが、問題なく貴族たちを癒している様だ」

「回復魔法を受ける貴族家の当主たちは、当然だが王族派やベルナール派の者たちだ。王族派やベルナール派の貴族家の当主たちは、今だ現役でいらっしゃる高齢の方たちが多い」

「その分身体に色々と無理がきているから、今回の回復魔法の件をとてもありがたがっているし、実際に痛みや疲労がなくなって涙を流す程感謝しているそうよ」

「今回の行動の目的は、貴族たちの取り込みといった所ですか」

「そう考えて間違いないだろう」


 カノッサ公爵夫妻がイチゴとベリー類を食べ終わり、アンナ公爵夫人からお許しも得たので、魔境産の各種果実をテーブルの上に並べていく。イザベラたちは待ってましたとばかりに輝く笑顔を浮かべ、しかし怒られない様にと、焦ることなくテーブルマナーをしっかりと守る。


(教会の様子を、一度自分でも確認しておいた方がいいな)


 俺は両目を閉じて魔力感知に意識を集中させ、ローラ嬢や教皇のいる教会の魔力の流れを調べていく。

 暗き闇の力は、直接対峙たいじした経験からも感知する事は難しくない。現に教会からは、小さいが暗き闇の力を二つ感じる事が出来る。この二つの小さい暗き闇の力は、ローラ嬢と教皇の二人から感じられる力だ。二人以外の教会内にいる者たちから、暗き闇の力を感じる事は一切ない。ローラ嬢や教皇に協力していても、力を授けられてはいないという事だろう。


(確実に事を起こすとしたら、日が沈みかけている夕方か、王都に暗闇が訪れてからだろう)


 アイオリス王国王都には、前世の世界の様に街灯がいとうが存在する。しかし、この街灯が王都を隅々まで照らしてくれる訳ではない。光が濃ければ、闇もまた濃くなっていく。街灯の光によって目が明るい事に慣れてしまい、闇に潜む者を見逃してしまう事もあるだろう。だが今回は、その見逃しは許されない。

 カノッサ公爵夫妻やイザベラたち、セバスさんを筆頭とした使用人たちに果実を振舞いつつ、俺は魔力感知の網を王都中へと広げていく。その広げた魔力感知の網を維持し、王都中の魔力の動きを感知するレーダーを構築する。王都の何処かで魔力の動きがあれば、それが暗き闇の力であったとしても、直ぐにでも感知する事が出来る。        

 ただ、例の結界が展開されている封印の場所は感知出来ない。なのでそこは割り切って、ローラ嬢や教皇の魔力の動き、総本山の教会内の魔力の動きに集中する。暗き闇の計画の要となっている、ローラ嬢と教皇の魔力の動きを常に把握出来ていれば、暗き闇側が何か行動を起こそうとした時に直ぐに動く事が出来る。


「ウォルター、お代わりをください」

「出してくれた分、もうなくなっちゃってさ」

「はいはい、分かりました」


 イザベラたちはそう言って、空になった器を見せてくる。アンナ公爵夫人も、イザベラたちと同じくお代わりを要求する様に、空の器をそっと俺の方に移動させる。カノッサ公爵は果実の価値を知っているので、少し申し訳なさそうにしつつも、同じくお代わりを待っている。それに対して俺は苦笑を浮かべながら、新たな果実を取り出してはテーブルに並べていく。警戒を怠る事はせずにいつつも、今はこの時間を楽しむことにしよう。

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