第286話

『この森に来ると、あの子たちの事を思い出すわね』

『サルパもですか?私もここに来ると、あの子たちを背に乗せて飛んだ時の事を思い出すよ。あの子たちの笑みが脳裏に浮かぶと、私も自然と微笑んでしまう程、忘れられない良き思い出です』

『そうね。私にとってもそうよ。あの子たちとの思い出は、忘れられない良い思い出だわ』


 この場へ新たに現れた蛇の聖獣と鷲の聖獣が、懐かしそうにしながら互いに思い出を語っている。最後の一体であるゴリラの聖獣は寡黙かもくな性格なのか、二体の聖獣の会話に混じる事なく、アセナ様とケルノス様に視線を向けて話しかける。


『……アセナ、ケルノス。遅れたか?』

『いや、問題はないよ。なあ、アセナ』

『ああ、ケルノスの言う通り問題はない。ガリル、オウギ、サルパ、よく来てくれた』


 アセナ様やケルノス様の言葉から、この場へ新たに現れた三体の聖獣たちは、元々ここに集まる事を予定していたのが分かる。そんな予定のある時に俺たちが押しかけてきてしまって、アセナ様にご迷惑を掛けてしまったのではないのかという、申し訳ない気持ちになる。


『ウォルターたちがこの森にきた事は、迷惑でも何でもないから気にする事はないよ。そもそもから、迷惑なら私は最初から訪問を断っている。短い付き合いだが、それらの事はウォルターたちも十分理解しているだろ?』

「はい、分かっています。では、ケルノス様たちがこの場に現れ、俺たちがそこに居合いあわせるという流れは……」

『それも含めて私たちの予定通りという事になる。元々、どこかでウォルターたちと顔合わせをさせようと考えていたからな』

「そうなんですか?」

『もう少ししたら、アモル神を通じて場を設けようとしていた。だが今回双方がこの場に来る事になったので、急遽ではあるが顔合わせの場にしようと決めたのだ。すまんな』

「いえ、大丈夫です。急遽決まった事ならば仕方ありません」

『そう言ってくれると助かるよ』


 この状況の事を説明してもらってから、お互いの顔合わせと自己紹介を行った。

 ゴリラの聖獣の名はガリル。アイオリス国がある大陸の、隣の大陸にある巨大な熱帯雨林ねったいうりんを守護している古き聖獣。物静かで温厚な性格をしていて、他の動物と共に熱帯雨林の調和を守り、長きに亘って熱帯雨林を守護しているとの事。

 蛇の聖獣の名はサルパ。これまたガリル様と同じく別の大陸で、南米の様な湿地帯しっちたいが広がっている場所を守護している古き聖獣。皆を引っ張っていく姉御肌な性格をしていて、他の動物たちの面倒を見ながら、長きに亘って湿地帯の調和を守り続けているとの事。

 鷲の聖獣の名はオウギ。ガリル様とサルパ様同様、他の大陸にある鬱蒼うっそうとした森林を守護している古き聖獣。冷静沈着なお兄さんといった性格をしていて、森林の最も高い位置に巣を作って一人で暮らし、森林の頂点から森林の全てを見守り、長きに亘って森林を守護してきたとの事。

 ガリル様たちはアセナ様やケルノス様と同じく、聖獣たちの中でも長き時を生き抜いてきた、古く強大な力を持つ歴戦の聖獣様たちだそうだ。


『前回での戦いでは、勇者たちの奮闘むなしく、最終的に封印という手段で終わった。だが今回は、確実に暗き闇の息の根を止める』

『その為に、ガリルたちをこの地に呼び寄せ、ウォルターたちと顔合わせをしてもらった。暗き闇との前面戦争の際にはガリルたちも戦いに参加し、その強大な力で存分に暴れてくれるだろう』

『……任せろ』

『勇者たちの心残りを、今度こそ完全に消し去ります』

『存分に暴れてやるわ』


 ガリル様は静かな闘志をたぎらせ、オウギ様は冷徹な暗殺者ハンターとしての顔を見せ、サルパ様は燃え滾る様なマグマの如き熱で、ケルノス様の言葉に答える。

 古き聖獣であるガリル様たちが味方となって共に戦ってくれるのならば、こんなにも頼もしく嬉しい事はない。勇者や聖女ジャンヌたちの想いを一緒に背負い、次に暗き闇と相対する時こそ、その存在を完全に消滅させる。

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