第285話

 久々に会ったケルノス様は、あの森で出会った時と変わらず、落ち着いていて穏やかな空気を身に纏っている。ゆったりとした動きであっても、そこに気品や優雅さといったものを感じられる程に、ケルノス様から聖獣としての余裕を感じられる。アセナ様とはまた違った、一つの森の主であり守護者である聖獣としての風格や覇気が、その全身から滲み出ている。

 悠然ゆうぜんと立っているケルノス様には、一切の傷もなく元気そうに見える。頭部の角などにも欠けた部分などがないので、あの出会った日から今日まで、暗き闇側の戦力との戦闘はなかった様だ。


「お久しぶりです、ケルノス様。傷一つなくお変わりがない様で、俺としても安心しました」

『ウォルターも、久々に顔を合わせたが元気な様で何よりだ』

「ケルノス様の所にも、暗き闇の手の者が現れましたか?」

『ああ、私の守護する森にも無礼者たちがきた。不躾ぶしつけに森へと踏み込んで荒らして進み、森に生息する木々や草花、動物たちを傷つけて帰っていった』

「……同じ人間として、森を荒し、動物たちを傷つけた事を謝罪します。申し訳ありません」

『申し訳ありません』


 予想通りとはいえ、人間が人の手の及ばぬ自然の領域である森を荒し、動物たちを無意味に傷つけたのだ。俺たちは同じ人間として、同じ人間が行った不躾な行為について、ケルノス様たちに頭を下げて謝罪しなければいけない。森・山・海といった自然溢れる場所は、人間たちの思惑によって好き勝手をしていい場所ではないからだ。


『同じ人間としての、ウォルターたちの謝罪を受け入れよう。しかし、これから先同じ事が起こったとしても、ウォルターたちが頭を下げる必要はない。私たちが怒り罰するのは、守護する場所を気付けた愚かで無礼な者だけだからな』

「…………ありがとうございます」

『こう思っているのは私だけではない。そこにいるアセナもそうだし、他の仲間たちも同じ思いだ。そうだろう?アセナ』

『……まあ、そうだな。そこに関しては、全ての聖獣たちが同じ気持ちと考えだろう。報復を与える相手は、守護する場所を踏みにじった相手だけ。危険を承知で少しの恵みを森から得る者や、生きる糧として動物たちと命の取り合いをする者など、自らも危険をおかして何かを手に入れようとする者たちに関しては、私たちから何かをするつもりはない』

『だが守護する場所を無意味に、不躾に荒したのならば、その者たちであっても容赦する事はない。その事だけは、ウォルターたちも覚えておいてくれ』

『はい、分かりました』


 アセナ様とケルノス様の真剣な雰囲気による忠告を、俺たちはしっかり胸に刻んで忘れないようにする。そんな俺たちの様子を見て、アセナ様もケルノス様も優しくフッと笑ってくれた。


『むっ……』

『来たな』


 和やかな雰囲気になっていた時、アセナ様とケルノス様が何かを感知した様に反応する。その反応の直ぐ後、この場に再び空間の歪みが現れる。しかし、先程のケルノス様の時と違うのが、空間の歪みが三つもある事だった。

 三つの空間の歪みから新たな存在が姿を見せる。一つ目の空間の歪みからは、普通の種よりも一回り以上大きく筋肉質な体をしている、艶のある漆黒の体毛のゴリラ。

 二つ目の空間の歪みからは、空間の歪みから全身が出るまで時間がかかる程に太く長い体の、全身が真っ白に染まり瞳が赤く光る巨大な蛇。

 三つ目の空間の歪みからは、全長が二メートル 以上もある、巨大で威圧感のあるわしがのんびりと歩きながら姿を見せる。鷲の羽色は、上面と胸が黒く、お腹が白と分かれていて、 頭は明るい灰色をしている。

 ゴリラ・蛇・鷲が全身から放つ威圧感と格は、アセナ様とケルノス様と全く遜色がないものだ。つまりこの場へ新たに現れた三体ともが、アセナ様やケルノス様と同じく森や山などを守護している、神々と肩を並べる存在である聖獣であるという事だ。

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