第275話
今回の婚約式に最も関係のある二人であるから、婚約式の場である協会にいると思っていた。だが、こうしてカノッサ公爵家の屋敷の方に姿を見せたという事は、婚約式に二人とも参加しなかったという事なのだろう。この事実が一切騒ぎになっていないという事は、陛下が直接箝口令を
それにしても、ラインハルト王弟殿下の実の兄に対する言葉は、血を分けた兄弟に向けたものとしては随分と過激だ。言い放った言葉の端々から、陛下に対する怒り・失望・呆れといった様々な感情を感じ取る事が出来るくらい、ラインハルト王弟殿下は一切自分の感情を隠していない。
そしてレギアス殿下もレギアス殿下で、ラインハルト王弟殿下と同じく、実の父親や母親に対する負の感情を隠しもしない。レギアス殿下にしてみれば、ローラ嬢やその生家であるベルナール公爵家の怪しさを調べもせずに、聖女であると認められたという事だけで婚約を認めた親だからな。国王としても父親としても、王妃としても母親としても、負の感情が抑えられないのも無理はないだろう。
「お二人とも、今回もお忍びでの来訪ですか?」
「まあ、そんな所だな」
「ええ、俺もです」
「今回の婚約式に、お二人とも招待されてたのでは?」
「愚兄に正式に招待されたが、
「私も
ラインハルト王弟殿下もレギアス殿下も、汚いものを見るかの様な冷え切った目で、ベルナール公爵夫妻とローラ嬢の事を見ている。レギアス殿下よりもラインハルト王弟殿下の方が年上の分、ベルナール公爵夫妻に対する負の感情が大きい様で、死線だけでなく顔にも感情が浮かんでしまっている。王族として厳しい環境に身を置き続け、副都レゼルホルンの副王として長年
(あそこまで感情を
陛下や王妃の前ではどうか知らないが、ラインハルト王弟殿下の前では存分に醜悪さを発揮し、自分たちの汚い部分を見せつけてきたのだろう。そんな醜悪な二人に加えて、手塩にかけて育てられたローラ嬢がいる。あの三人の本性を知っていれば、誰も近づきたくはないと思うし、言葉を交わす事すらも嫌がる事は間違いない。
「それに、あそこにいるベルナール派の貴族たちも、ベルナールの者たちと似た様な醜悪さだからな。ベルナールの者たちがいなかったとしても、あの場に行く事は断っていた」
「私も叔父上と同意見だ。それに私の場合は、人生の殆どを副都で過ごしてきた事も大きい。父や母、それから兄との思い出は全くと言っていい程になく、家族としての思い入れも
アルベルト殿下だけでなく、陛下や王妃も嫌われたものだな。まあ、それも仕方なのない事か。どんな事情があろうとも、幼いレギアス殿下の意思を聞き入れる事をせずに、生活拠点を副都レゼルホルンへと移させたのだから。
だが俺たちとしては、陛下や王妃のその決断によって、力強い味方を一人得る事が出来た。もしレギアス殿下が王都で暮らし続けていたら、俺たちと共にいる事を選択したとは思えない。その未来が存在したとすれば、今頃は陛下や王妃と共にあの場にいて、兄の婚約を喜んでいたかもしれないな。
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