第274話

 盛大に行われていたローラ嬢とアルベルト殿下の婚約式が、遂にクライマックスを迎える。俺たちが婚約式を行った時と同じ様に、立会人によって婚約を正式に成立させる、互いに誓いの言葉で愛を伝えあうのだ。

 ローラ嬢とアルベルト殿下の婚約式の立会人は、この国の国教であるアモル教の最高権力者である、教皇その人が務める事になっている。まあ、当然と言えば当然だ。偽りといえ聖女の婚約式だからな。それに、例え相手が聖女でなかったとしても、アルベルト殿下は直系の王族であり継承権第一位の次期国王だ。この国の次代のトップの婚約式、その立会人となれば相応の格が求められる。その点においても、教皇が最も立会人に適していると思われる。

 この立会人を決める際、色々な人間による色々な思惑があったそうだ。特に欲深く愚かだなと思ったのは、あわよくば自分もしくは関係者を立会人にして、少しでもベルナール公爵家や王家に対して影響力を持ちたいと、無能な者たちが無駄な行動力を発揮した事。どう考えても叶う事のない野望を叶える為に、かなり無茶をした貴族が多かったそうだ。


(教皇が何かしらの事情で立会人が出来ないとしても、陛下や王妃の二人が立会人を代わるだろうしな。ベルナール公爵家の派閥に属している貴族たちは、そういった事を考えられない程に、叶う事のない欲望に気を取られたんだろう)


 教皇が意気揚々いきようようと立会人の場所まで移動し、ローラ嬢とアルベルト殿下の前に立った。そして、アモル教の教皇として真剣な表情と雰囲気となり、ローラ嬢とアルベルト殿下にそれぞれ問いかける。ローラ嬢もアルベルト殿下も問いかけられた事に答え、愛の誓いを互いに伝え合っていく。最後に、婚約指輪を互いの指に付けて、顔を近づけて情熱的なキスを交わす。


『――――――!!』


 ローラ嬢とアルベルト殿下が情熱的なキスを交わした瞬間、ベルナール公爵家の派閥に属している貴族たちや、婚約式を見ていた王都の人々が大きな歓声を上げる。その大きな歓声に、ローラ嬢は頬を赤く染めながら手を振り、アルベルト殿下はニコリとさわやかに微笑みながら手を振って返した。二人の返答に、貴族たちも王都の人々もさらに大きくテンションを上げる。

 婚約式を見ていた者たちに喜ばれている光景を見て、父親である陛下は誇らしげにアルベルト殿下を見て、母親である王妃は嬉しそうに微笑んでアルベルト殿下を見ていた。そして、ローラ嬢の両親であるベルナール公爵夫妻の顔にも、それぞれの心の底からの感情が浮かび上がっていた。父親の顔には勝利を確信した醜い笑みが、母親の顔には欲望に濡れた満面の笑みが浮かんでおり、見る人見れば二人の人間性が丸分かりの笑みだ。


「全くもって醜悪な笑みだ。片方には、王家の血が流れているという事に心底鳥肌が立つ。それに父や母も、あの様な連中とえん続きになるというのに、ろくに調べもせずに婚約式を行うとは……」

「レギアス。あの愚兄ぐけいに期待するのは止めておけ。アルベルト可愛さに、完全に目がくもりに曇っているからな」


 婚約式を見ていた俺たちの元に、二つの聞き覚えのある新たな声が聞こえてきた。俺たちが聞き覚えのある新たな声の方を振り向くと、そこには二人の男性が立っていた。一人は、アルベルト殿下の弟であるレギアス第二王子。そしてもう一人は、現国王である陛下の弟であるラインハルト王弟殿下であった。

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