第273話

「…………可哀想に。ベルナール派に属していない者たちの笑顔、全員見ただけで引きつっていると分かるぞ」

「ベルナール派の者たちが浮かべている笑顔の方も、派閥に属していない者たちとは別の意味で問題よ」


 カノッサ公爵は派閥に属していない貴族たちに同情し、アンナ公爵夫人の方は、ベルナール公爵家の派閥に属している貴族たちの笑顔について指摘してきした。


「確かにお母様の言う通り、あの笑みには問題しかありませんね」

「ベルナール公爵家の派閥でいる事の優越感。自分たちの懐に入ってくる大きな権益けんえき。色々な感情が隠しきれずに、その顔にみにくい笑みが浮かんでいますね」

「でしょう?腹芸に慣れてない人なら仕方ない部分はあるけど、あそこには腹芸に慣れている上位貴族たちもいるのよ。それがまあ、揃いも揃ってあのザマなんて……」

「中でも一番醜い顔をしているのが、自分の産みの親という事が恥ずかしくてなりません」


 冷めた視線で産みの両親を見て、心の底から軽蔑している雰囲気を放っているマルグリット。マルグリットの言う様に、婚約式が行われている教会内で一番欲に塗れて醜い顔をしているのが、派閥のトップであるベルナール公爵夫妻だった。

 父親であるイヴァン・ベルナールの方は、次期国王である第一王子の義理の父親となる事で、陛下や王妃に次ぐ強大な権力を有する事への欲望が表れている。アルベルト殿下の未来の妻となったローラ嬢を裏から操り、自分の領地に目が飛び出る様なけたの資金を投入させ、自分の懐をうるおす事を考えているのだろう。

 そして母親であるスザンヌ・ベルナールの方は、イヴァン・ベルナールの権力欲とは違い、女性としての欲望の方が強いと感じられる。湯水の如く溢れ出てくると勘違いしている王族のお金血税を使い、服・化粧品・エステなどなどを毎日の様に楽しみ、女性として心から満たされる生活をしようと妄想している様だ。

 そんな欲望塗れな二人の娘であるローラ嬢はローラ嬢で、二人の歪んだ性格や考え方を見事に受け継いで、身を滅ぼす程の欲望を抱いている。甘やかされて育った事が大きく影響し、自分の気に入らない者に対しては聖女や未来の王妃としての強大な権力を揮って、嬉々として理不尽に苦しめるのが目に見える。そして母親と同じ様に、女性として心から満たされる生活をしようと散財を繰り返し、この国の財政を傾けていくのが分かり切っている。


「……向こうから容易たやすく縁を切ってくれた事にだけは、奴らに心から感謝したいな」

「ウォルター?」

「あんな人間の汚い部分を煮詰につめた様な奴らがいる家から、どうやってマルグリットを開放して連れ出すのかを、皆で必死になって考えてたんだ」

「…………」

「だが奴らが欲望を満たすために、こちらに対して何の交渉をする事もなく、マルグリットを手放してくれた。……あの根も葉もない事を、公式の場で当主として発言したことは一生許すつもりはないし、それを安易に信じた連中も同じく許すつもりはない。それが誰であってもだ」

「……ウォルター、ありがとう」

「マルグリットは、俺たちが一生けて幸せにしてみせる。皆で一緒に笑って、楽しく暮らしていこう」

「――――はい!!」

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