第272話

 その日はしくも、俺たちが婚約式を行った日と同じく、朝からよく晴れた天気のいい朝から始まった。

 ローラ嬢とアルベルト殿下の婚約式は、王都にあるアモル教の教会、王都にある最も大きな教会にて行われる。初期段階の計画では、王城で婚約式が行われる予定であり、爵位に関係なく貴族たちを招待する事になっていたそうだ。だがローラ嬢の我儘によって色々と変更された事や、アモル教の聖女であるという事も関係し、忖度と妥協の結果アモル教の教会でという事に決まったとの事。その教会はカノッサ公爵家の屋敷からも程近く、屋敷の屋上から教会や周辺の様子がよく見える。


「あれだけ我儘言って振り回して、一体どんな婚約式にするのかしらね?」

「さあ?でも王家が関わる婚約式だから、予算も人員も潤沢じゅんたくでしょうし、もの凄く派手にやるんじゃないの」

「ローラの事ですから、まず間違いなく派手になると思います」

「王都の人々にも見せつけたいという願いも、この様子なら十分に叶えられそうですしね」

「確かに。この様子なら、会場となっている教会にはもの凄い人が集まっているだろうし、ローラ嬢の優越感とプライドは満たされるんじゃないか」


 カノッサ公爵家の屋敷を含めた、各貴族家の屋敷が集まっている地区では、朝早くから人々が馬車に乗って移動を始めていた。忙しそうに用意をし、遅れない様に急いでいる姿を、俺たちは屋敷の屋上から静かに観察していた。

 それから、ローラ嬢の王都の人々にも見せつけたいという願いを叶えた結果、今回の婚約式は王都の人々も見る事が出来る様になっている。その為、王都の人々は各貴族たちと同じ様に朝早くから行動し、ぞろぞろと教会に向かって歩いている。

 ただ、王都の人々にも見る事が可能という事にしたが、貴族たちに混じってという事ではない。教会の敷地内に入る事は貴族のみに許されており、間違っても市井しせいの人々が入らない様にと、警護の騎士たちが立って警戒しているそうだ。それを知っていてもなお一目でも見たいという事で、教会の周囲に多くの人々が今現在も集まり続けている。


「時間的にはもうそろそろだが…………」

「始まったわね」


 アイオリス王家・アモル教にとっての一大行事である、偽りの聖女ローラ・ベルナールとアルベルト・アイオリスの婚約式の始まりを、王都で最も大きくて広い教会の鐘の音が高らかに告げた。

 鐘の音が何度も響き渡り、それに合わせて観客のテンションも上がっていく。そのテンションが上がっていく様子は、俺たちがいる屋敷の屋上からでもよく見える。その熱は凄まじく、市井の人々がこの婚約式を楽しみにしていた事が伝わってくる。

 その熱を燃やしているは市井の人々だけでなく、ベルナール公爵家の者たちとその派閥の貴族たちや、ローラ嬢の取り巻きである派閥に属している生徒たちも、市井の人々と同様にテンションを上げていっている。そして、今日の主役であるローラ嬢とアルベルト殿下が姿を現すと、その場の熱とテンションが最高ちょうにまで到達した。

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