第268話

 貴族令嬢連合の彼女たちが、充実した幸せに満ちている学院生活を送り始め、ローラ嬢に対して何かを言う人たちがいなくなった魔法学院。そんな転換点てんかんてんとなった舞踏会から暫く経ったある日、静かになっていたはずの魔法学院が再び、日を追うごとにある事について騒めきが大きくなりだした。

 その騒めきの原因は、考えるまでもなくローラ嬢だ。今回何をローラ嬢がしたのかというと、どうやら俺とイザベラたちの婚約式の事を今更知ったのか、自分とアルベルト殿下の婚約式をやりたいと言い出した。それも、王都に住む人たち全員に見せつけ、自分がどれ程幸せであるのかを知らしめたいとの事。

 しかもそれだけでなく、貴族令嬢連合の彼女たちから、俺やイザベラたちまでも招待すると言っているそうだ。さらには各上位貴族家の当主たちや、陛下や王妃を筆頭にした王族たちなど、豪華な面子めんつを集める事にこだわっているらしい。そして当然の事の様に、婚約式には側近たちも招待されており、そのご両親である各家の現当主たちも招待されている。


「セドリックたちのご両親は、息子たちがローラ嬢に熱を上げている件について、それぞれどう思ってるんだろう?」

「あの三人は婚約破棄の一件から今日まで、何か問題を起こしたという事は聞いていないから、まだ見切られてはいないはずよ」

「でも舞踏会でのあのやらかしは、直ぐにでも当主や家に伝わって、そこから社交界へと広がっていくでしょうね」

「そうなれば、セドリック殿たちは真偽しんぎほどを問われ、ありのままを話さざるを得ないでしょう」

「もしそこで嘘が一欠片でもあれば、完全に当主から見切りを付けられて、家の者たちからも見捨てられてしまいます」

「婚約破棄の件で評価を下げている状態だから、少なくとも以前よりは厳しく見られている。そこに舞踏会での件が加わると…………」

「血の繋がった息子、家や要職を継ぐ次期後継者であったとしても、不問ふもんす事は出来ないか」


 婚約破棄の件については、側近たちが積み上げていた信用や信頼があった分、ギリギリで処分をまぬがれていた。だが、今回のローラ嬢の脅迫行為に便乗びんじょうした事は、貴族の子息として確実に処分を下されるだろう。何せ、ローラ嬢が脅迫する際に持ち出した権威は、ベルナール公爵家の娘という権威ではなく、聖女ジャンヌの生まれ変わりにして後継者という権威であったからだ。

 さらに言うと、その権威を用いた相手も悪かった。貴族令嬢連合の彼女たちは、アイオリス王国に古くから存在する、それこそ聖女ジャンヌが存命の頃から貴族として生きてきた家だ。その中でも特に悪手だったのは、側近たちに代表としてダンスを申し込んだ三人に対して、聖女の権威を用いて脅迫した事だ。

 暗き闇と戦った勇者パーティーに所属していた聖女ジャンヌ、その聖女ジャンヌの才を一早く見抜き、大きく力を貸していたという貴族家が三人の生家である各侯爵家なのだ。彼女たちの生家である侯爵家の先祖たちは、アモル教に多大な協力をして勇者パーティーと聖女ジャンヌを支え、暗き闇との戦いの決着が付くまで共に戦い続けた。そしてこの事は、要職に就いている各貴族家やこの国の王族、アモル教にも連綿れんめんと伝えられてきているのだ。

 つまり、ローラ嬢は偽りではあるが聖女であるにも関わらず、勇者パーティーや聖女を支えた彼女たちの生家を脅したのだ。それに便乗した側近たちは勿論、便乗しなかったとはいえ沈黙を貫いていたアルベルト殿下も、お咎めなしで済む事はありえない事だ。というよりも、あってはいけない事だろう。


懸念けねんがあるとすれば、アモル教の教皇だな)


 自分が聖女であると認めたローラ嬢が、超えてはならない一線を越えたという時、教皇やアモル教がどう動くのかは予測出来ない。もし教皇がローラ嬢を擁護ようごするのならば、アモル教というこの国を支える一つの巨大な宗教の力が、暗き闇側に上手く利用される事になる。

 もしもの時の事を考えて、カノッサ公爵夫妻やローザさん、ラインハルト王弟殿下やレギアス殿下と密に情報共有をして、対策を考えておかなければいけないな。

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